ライラの冒険 黄金の羅針盤
2013年10月26日 土曜日クリス・ワイツ監督・脚本、ダコタ・ブルー・リチャーズ主演、ニコール・キッドマン、ダニエル・クレイグ共演の「ライラの冒険 黄金の羅針盤(The Golden Compass)」。
フィリップ・プルマンの児童文学「ライラの冒険」シリーズの一作目「黄金の羅針盤」が原作。
自分の魂がダイモンという動物の形となって人間の側に付き添うという別世界の話。ダストと呼ばれる謎の物質を研究しているアスリエル卿が北極へと向かい、彼の姪であるライラの前に謎のコールター夫人が現れ、ライラを連れ出す。ライラは学長からダストへ辿り着ける、真実を示す黄金の羅針盤アレシオメーターを渡された。ライラだけがこの羅針盤を正しく読めるのだった。
まあ、見事に児童文学。子供の主人公は本人は知らないけれど選ばれた特別な能力を持ち、それによって世界を救えるので悪い奴らに狙われるという、非常に在り来たりな設定と展開。そんな設定なのでライラが中心になり物語が展開し、徐々に全容が見えて行くのかと思いきや、ライラの周りの大人が暗躍しているのが基本で、ライラは脇役的に巻き込まれて行くだけ。都合良く人が現れてはその人によって話が進み、見ている方は置いてけ堀に勝手に話が進んで行くだけの感じで、各人物に対する「何?」とか「何で?」と疑問ばかりが先行して、見ていても面倒臭いだけ。あっちこっちに話が展開し、意味も分からないまま人物が現れてはどっか行き、長編小説をまとまりも無く二時間に詰め込んだ感しかない、酷い構成の脚本。ライラが黄金の羅針盤を覗くと何でも分かり話が展開して行くという、都合の良いだけの構成も酷い。
何でこんなグダグダな映画なのかと思ったら、この監督、あの駄作「ナッティ・プロフェッサー2 クランプ家の面々」の脚本家だったのか。だからか。
世界はダイモンがいない別の世界と繋がっているとか、世界を支配しているマジェステリアムとかのSF的設定はファンタジーにしてはおもしろいのに、それも効果的には使われておらず、ガジェットとしてのハッタリ感しかなく、結局は無駄使いにしか思えない。マジェステリアムとか現実世界のキリスト教会の暗喩として使われている様でおもしろくはあるけれど、なんでマジェステリアムが世界を支配し、何を持って支配出来ているのか?とか、何でダストを隠すのか?とか、さっぱり分からず仕舞い。
この映画に対し、特にマジェステリアムやダストだろうけれど、北米カトリック連盟が「無神論を奨励する」と抗議したから興行収入が振るわなかったと一般的には言われているみたいだけれど、アメリカでの興行収入が振るわなかったのは単にこの映画がつまらないからでしょ。
映画世界の科学は現実の19世紀後半から20世紀前半の延長線上のH・G・ウェルズのSF的世界の様な感じで、そこだけは雰囲気は良く、お金をかけて作ってはいるけれど、この映画が安っぽいのは、ダイモンという常に動物がいる世界なのに、世界の仕組みや建物や用具はダイモンがいない現実の世界と全く変わり映えしない事。町中や家の中にはダイモンがいるのにダイモン用の何かという物が一切無い。白熊の世界も人間の世界と変わりない世界で、建築とか道具も人間式。この世界の作り込みの浅さは見ていても安っぽさや嘘臭さ、如何にも作った感ばかりを感じてしまう。
魔法はあるみたいだけれど魔法らしい魔法は出て来ず、魔法の扱いは微妙な感じだし、魔女とか白熊族とか、ほとんどジプシーなジプシャンとか色々入れ込んではいるけれど、単に「違う世界ですよ」と言いたいだけのガジェットで、それが話と噛み合って効果的な要素になっているかと言うと全然なってなく、全体的な必然性の無さ感によって安っぽさに拍車をかけている。
CGもバリバリ使っているけれど、やっぱり生物のCGの出来は良くない。機械なら良いけれど、生物のCGってやたらと動かしまくるので全然現実っぽさがなく、CGというよりはCGアニメーションでしかない。ダイモンという動物が常に人間の側にいるだけに、動物のCGの作り物感は痛い。
失敗したのは吹き替え版で見てしまった事。主人公のライラ役の吹き替えは、この映画が日本での宣伝的に弱いと思ったからか映画会社が行なったオーディションで決まった西内まりやというモデルで、ニコール・キッドマンは山口智子と声優としては下手糞な人が吹き替えているので、見るのがきつかった。序盤にライラとニコール・キッドマンの二人の場面が多いだけに、内容の酷さも相まって見るのを諦めかけ、その後は適当に見ていた。近年の日本の映画会社の、公開前の話題性だけあれば内容の質なんかどうでも良いという魂胆が見え見えで萎えまくり。
この映画、色々ガジェットを詰め込み過ぎているのに話はお座なりに進み、連続テレビドラマの見せ場の場面を繋いだだけの様な感じで、一つ一つの話が薄く分かり難い総集編みたいな感じ。多分、原作読んだ人向けの要約映画なんだと思う。
都合良く物事を知っている人々が都合良くライラの前に現れて来るばかりの展開なので、全てが原作にある話を展開させるだけの為に都合良く持って行っているとしか思えない。ほとんどを「こういうモノなんです!」と見ている方を納得させる事を放棄しているので、勝手にやっとけという感じしかしない。まあ、この内容じゃあ続編は出来ないだろうなぁ。あの、引っ張るだけ引っ張って解決どころか、特に何も進展もせずに続編へ…という、二作目作る気満々なのに、その続編すら製作されなかったという未完成っぷりは、この映画に相応しい幕切れ。
★★★★★