ラブソングができるまで
2013年06月26日 水曜日マーク・ローレンス監督・脚本、ヒュー・グラント、ドリュー・バリモア共演の2007年の恋愛コメディ映画「ラブソングができるまで(Music and Lyrics)」。
ヒュー・グラントは1980年代にPoPというバンドで大ヒットを飛ばしたが、今ではかつての80年代スターとしての人気しかなく、同窓会や遊園地の催し物で歌う様な営業ばかり。そんな中、人気若手女性歌手への楽曲提供の話が舞い込むが、彼は作曲は得意だったが作詞は駄目で新たな作詞家を探していた。そこへ何時もの植木係の替わりにやって来たドリュー・バリモアが口ずさんだ歌詞を気に入り、彼女を作詞家として採用。共同作業で新曲を作り始める。
始まりの、行き成りの80’s POPS的な歌とPVのPoPの「Pop! Goes My Heart」に持って行かれてしまった。髪型、服装、変な踊りという見た目から、ミュージック・ビデオの妙に切ない恋愛劇、変に紗のかかった映像や画面分割、画面転換まで本当の80年代のバンドのPVと言っても良い位の完成度でガッチリ心を鷲掴み。楽曲も本当に80年代の曲と言われても信じてしまう位の完成度。ヒュー・グラントが引いているシンセサイザーが「Yamaha DX-7」と「Roland D-50」なのもくすぐられる所。これだけでこの映画の勝ち。
そして、何よりヒュー・グラントの役のはまり具合が素晴らしい。ヒュー・グラントって、バリバリの企業家で大金持ちとか、イギリスの首相とか、その配役自体がコメディみたいな「いやいや、無理あるなぁ!」といった役柄が多いけれど、この映画の役柄はぴったり。かつては大スターで時の人だったのに、今ではその当時のファン位しか見向きもされていないのに、そんな自分をそれ程卑下もせず、小さな所で昔の歌を歌っても全力で歌い、常に陽気に生きている「前向きなアホ」がはまり役だし、見ていても嫌味が無く、むしろ気持ち良い役になっている。歌声も甘い感じで中々良いし。
一方のドリュー・バリモアも、常にお喋りで明るく、でも後悔や緊張もする普通な女性で良い感じ。
この二人が出会った瞬間に恋愛になるのは余りにも明白ではあるけれど、前半の展開はメチャメチャ面白く見れた。80年代に大ヒットしたけれど、そのもう一人は早くも一抜けて成功していて、見捨てられた形で残されたもう一人はソロでアルバム出しても売れず仕舞いで目立った音楽活動はしておらず、「あの人は今?」的な歌手って、ワム!のジョージ・マイケルじゃない方、アンドリュー・リッジリーっぽかったり、中年のおっさんのプロと若い女性の素人が共同作業で物を作りながら恋に落ちて行くってウィリアム・ホールデンとオードリー・ヘプバーンの映画「パリで一緒に」っぽいとか、特にアメリカの80年代ポップスに詳しいとおもしろいはずなくすぐり一杯で非常に楽しい。
ただ、中盤辺りで二人が寝てしまうと王道な恋愛映画、悪く言ってしまえばこれまでの恋愛映画で見て来た展開と大して変わり映えしない普通過ぎる恋愛映画になってしまい、後半に行くと一気におもしろさが落ちてしまう。前半の仕事上の関係から友情へと変化し、微妙な恋愛関係までなら「どうなるの?」でワクワクして見られるけれど、男女の恋愛関係になると、「初めは上手く行くけれど、二人のこれまでの人生の違い、考え方の違いが出て関係が壊れかける→でも、男性側から熱い告白でめでたしめでたし」というもう数十年前からある、見飽きたハリウッド恋愛映画になる事は予想が付き、その通りになってしまい冷める事甚だしい。最後のヘイリー・ベネット演じる女性歌手コーラのライブで、コーラは際どい露出の衣装でバリバリ踊って、歌っている方もティーンか20代前半の女性、客層もティーンか20代位という中で、50歳近い80年代だけで知られるおっさんの歌手が登場し、ピアノの弾き語りで自分の曲を歌ったりデュエットするなんてイベンターやコーラ側のスタッフが何考えているのかさっぱり分からない無茶苦茶な構成で、途端に馬鹿らしくなった。そもそも何で東洋思想にはまっている他の歌手と張り合って売れる事しか考えていないティーン歌手が、今更なヒュー・グラントに楽曲を依頼するのかが不可思議ではあるのだけれど。
何より終盤の、他人の曲で一先ずは上手く行って終わってしまう話が変な感じ。この設定だったら、ヒュー・グラントとドリュー・バリモアの曲が勝手に変えられるので拒否。かつてのやる気を出したヒュー・グラントがこの曲を埋没させない為に再びソロ・アルバムを作ろうと二人で頑張る。やっぱりそれ程売れないけれど、それなりに評価もされ、音楽活動も恋愛も前向きに動き出すって話にした方が良いんじゃないの?音楽活動に前向きなヒュー・グラントや、売れなかったソロ・アルバムの伏線もあるし、何より勝手に自分を題材にして書かれた小説がベストセラーになって思い悩むドリュー・バリモアの話って、特にその後の見返しも無いままでほったらかされ、何だったの?
この映画、前半までは非常におもしろく見れて「久々に恋愛映画では当たりかも?」と思えたのに、後半に入ってからの普通過ぎる恋愛映画への堕落としょうもなさで、ガクンと急な評価の低下。後半の脚本の展開が勿体無さ過ぎ、そこさえ別のモノだったらなら大分良い映画だったはず。
ただ、ヒュー・グラントの恋愛映画って、どれも「何じゃ、こりゃ?」なモノばかり、役柄も「ふ~ん…。」ばかりだったけれど、これでの役は非常に良く、今まで見た中では一番。
☆☆☆★★