素晴らしき哉、人生!
2012年12月28日 金曜日フランク・キャプラ製作・監督・脚本、ジェームズ・ステュアート主演の1946年の映画「素晴らしき哉、人生!(It’s a Wonderful Life)」。
世界を旅し、やがて大きな都市を作りたいと願う高校を卒業したばかりのジェームズ・ステュアートは、父親の急死により不本意ながらも大学には行かず、父親の経営する建築貸付組合を継ぐ事に。結婚もし、幸せに思えた中、不注意で資金を失くしてしまった事により会社を失う寸前になり、これまでの不満が爆発し自殺を図ろうとする。そこへ天使と名乗るおじいさんが現れて、自分の存在の価値を知る。
これ、構成が良くない。始まりで最後の天使の登場のフリは入っているけれど、本編のほとんどが、希望と理想はあるけれど時々やって来る困難によってその思い通りに行くとは限らないジェームズ・ステュアートの人生模様を、冷静でもあり、温かくもあリ、現実味を持って非常に良く描いていてとても見入るのに、終盤、それも終わり20分弱という始まりのフリなんてに忘れた頃になって急に天使が登場し、単なる都合の良いファンタジーに落ちてしまう。この天使の登場がまだ早い段階、中盤の一時間位の所とか、始めの方で入っていた彼のナレーションも中盤以降さっぱり無くなってしまうので、もっとナレーションが頻繁に入って来るなら、天使の登場もまだ許せただろうけれど、登場が遅過ぎで、単に良い話にしたいが為のデウス・エクス・マキナでしかなくなってしまい、見ていて非常に白ける。彼の存在しなかった世界をうろつくのも、それまでの人間関係のもう一方を全て見せなくてはならないので、何時まで経ってもジェームズ・ステュアートが理解せず、叫んで怯えるのが長過ぎで「分かったから…」感が強くなってしまう。そもそもクリスマスだから奇跡が起こるなんて、キリスト教信者以外にしてみれば話としては都合が良過ぎな展開。クリスマスに奇跡を起こしても良いのは、ジョン・マクレーンだけ。折角、自分が望む人生と現実の乖離で悩むという現実味のある、どの時代に置いてでもある生き方と考え方を真面目に描いていたのに、そこにファンタジーで綺麗な話に無理矢理持って行かれるとグッタリして来る。思い通りに行かないからこそ心に響くし、残るのに、「良い話でしょ!」と大声で叫ばれると「ふ~ん…。」と引いてしまう。特に最後の皆が集まって来ての終演なんて、その狙い過ぎな演出にゲッソリして来る。
それにこの話って、別に天使はいらないかも。天使は彼のいなかった世界を見せるけれど、見せても彼は暫く気付かなかったけれど、結局それを見せないと人って気付かない、一から十まで言わないと気付かない駄目なモノで、じゃあ彼以外はどう気付くのかという導きは無いし、何より天使はジェームズ・ステュアートを自殺から救ったけれど、会社を救い彼を救ったのは都合良く集まったお金で、天使は関係無いし。「情けは人の為ならず」や、親切が人を救うという部分がぶれてしまっている。
この映画はまだ今程貧富の差が現れていなかった1940年代という時代性もあるかもしれないけれど、確かにジェームズ・ステュアートの人生の歩みは引き込まれるのだけれど、元々小さな会社とは言えそこの坊ちゃんで、その後も大金持ちではないにしろ良い暮らしだし、何より勝手に女性にモテ、彼を理解して支えてくれる献身的な女性と結婚していて、町の人々に慕われている相当恵まれた人生を歩いているのに、それに満足せず不満を抱えているという、挫折を感じていない金持ちのボンボン感があり、ちょっとついて行けない部分もある。
付いて行けないと言う部分では、ジェームズ・ステュアートは貧しい人に安く持ち家が持てる様にお金を貸し、新たな住宅地を提供しているけれど、サブプライムローンを知っているとこの行動は微妙に複雑な思いに至るし、今まで野生動物が走り周っていた土地を広々したアメリカ的住宅地にするなんて、今の日本的感覚だとどう考えてもジェームズ・ステュアートが悪者に見えてしまう。
それにこの映画では1910年代から1940年代という、今から100年近く前のアメリカの様子なので、文化的背景も戸惑う所があったり。「服装が上等じゃないからか!」と怒鳴る場面があるけれど、全編に渡り誰の服装が金持ちで、誰が貧乏なのかさっぱりピンと来なかったり。薬局でアイスクリームを売っていたのには驚いた。あと、1920年代から高校の卒業ダンスパーティーって存在していたんだな。それが有名でもあり重要な要素でもある「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を始め、アメリカの映画やTVドラマで現在でも出て来るし、高校生が楽しみにしているなんて、相当伝統的なお祭りだけれども、日本人的にはピンと来ない重要性があるのか。
この映画は、何と言ってもジェームズ・ステュアートの存在と演技に尽きる。ただ、彼はこの時38歳で流石に高校生は無理があり過ぎ。おっさんがふざけている様に見えてしまい、コメディ色は強いけれど、若者に見せる演技は上手いし、歳行ってからの疲れた表情や、追い詰められて行ってしまっている目付きは迫真。ジェームズ・ステュアートが全ての人を支えているというのはこの話だけでなく、この映画自体の事でもあったりする。
ジェームズ・ステュアートが子供の時にすでにおじいさんだったポッターや薬屋の主人って、ジェームズ・ステュアートがおっさんになった、確か20年以上経っているのに生存しているって元は何歳?
この映画は何と言っても構成の拙さ。デウス・エクス・マキナははっきり言って一気に萎えるけれど、彼のいない人生を見せるならもっと早い段階でしないと今までが単なるフリにしか思わなくなり、そのフリにつき合わされた感が強くなってしまう。ジェームズ・ステュアートは死んではいけないという事と、自分の人生結構良いじゃんと思う以外、特に何か行動を起こす訳でも無いのに全てが解決してしまう都合の良さが前に出て来てしまい、そう思ったからどう生きるかが重要なはずで、そこを一番見せて欲しいのに。それから、最強の悪役ポッターって結局どうなったの?
☆☆★★★