卒業

2012年07月04日 水曜日

ダスティン・ホフマン主演の青春映画「卒業(The Graduate)」。

この映画の最後の教会の場面や、サイモン&ガーファンクルの音楽が有名なので、雰囲気からして暗く、重い青春映画かと思ったら、若者の不器用さを描いた青春コメディ、かつスリラーだったので、ちょっと驚いた。
前半は初心な若者が有閑マダムにおちょくられながら誘われて、不倫に走って行くコメディ。ここら辺は、この上手い事使われている若者と、気怠い年上の女性の関係性や、会話がおもしろく、終始ニタニタ、時に声出して笑っていた。
しかし、中盤の娘の方に気持ちが行き始めてからは、ダスティン・ホフマンの狂気の物語で、どんどん恐ろしくなり、引き始める。母親と関係を持っているのに娘に手を出し始める時点で相当の強者だけれど、母親との関係があっても彼は純粋に好きだからとドンドン行ってしまう怖さ。そして、その関係を知ってしまった娘を追いかけ回すストーカーになり、言動は自分勝手過ぎ、最早意味不明の主張を始める。その突っ走りまくるダスティン・ホフマンが怖過ぎ。最後も、「あいつは俺の事が好きだ!」で結婚式に乗り込み暴れまくって娘を連れ出し、あのバスでの二人の顔。つい前まで、あれ程刺激的で興奮していたはずなのに、息切れも無く、二人に笑顔は無く、ダスティン・ホフマン呆けたかの様に中空を見つめ続けている。恋に対する情熱で行動していたのに、速攻で興味を無くし、ただ熱し易く覚め易いだけで、恋に恋していたかの様な何も無さに、最も恐怖を感じ、そのまま終わって行くのだから怖過ぎた。
ダスティン・ホフマンは、初めは怠惰で流されやすい若者だったのに、何時の間にかジゴロの様な女性を手玉に取る様な上手い話口になり、やがて自分さえ良ければな狂気に陥り、まあ自分勝手だけれど人間的で、若者像としては分かり易い人物。母親の方も、こちらも怠惰で、嫉妬深く、自分勝手で分かるのだけれど、娘の考えが判り難いので、後半はさっぱりわや。この娘、侮辱しても無理矢理キスしたら機嫌直して仲良くなるし、母親と不倫していた事が分かっている相手にガンガン来られたら、初めにあった憎しみや嫌悪感も何処へやらで、何でか知らないけれど好きになってしまうし、とにかく押されたら「うん。」と言ってしまう頭の悪い子なので、物語が急にしょっぱくなる。この娘の相手に対する考えが読めないので、最後の結婚式からの流れも何のこっちゃ。最後は製作陣が「良い事考えたから!」で、無理矢理押し込んだ様な取って付けた様な展開で、折角のそこまでが台無しな感じに。

サイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」も、始まりの時は憂鬱な感じがしたのに、二度目のダスティン・ホフマンがバタンとドアを閉めた後に流れた時には笑ってしまった。「初めてじゃない!」の後の憂鬱でこの曲って、明らかに笑かしにかかっている。

ダスティン・ホフマンは若くて、非常に初々しい感じがするのだけれど、妙に歳喰っている様にも見えると思ったら、この映画の時は30歳。それを知ると、この若さの出し方と、モヤモヤの憂鬱の表情は流石。でも、顔が大きいのか、体が小さいのか、体と頭の全体の釣り合いが変な風に見える。
アン・バンクロフトは中年女性の倦怠感と、色気が出ていて、この役を非常に引き立てている。虚ろな表情と言い、無慈悲な表情と言い非常に上手い。役柄的にもダスティン・ホフマンよりも目立つ。

演出も、非常に間を取りつつも会話を畳み掛けたり、気怠いサイモン&ガーファンクルの音楽の多用と、全体的に気怠くしている一方、画面の前面に何か物が入ったり、人物と被ったり、構図を工夫して見せる様な作りになっていて、飽きさせない。

前半コメディだったのに、後半からはスリラーになるという珍しい構成。そのコメディ部分はニタニタ出来る楽しさがあり、その後のダスティン・ホフマンの狂気におののきはするけれど、やっぱり娘の行動が疑問だらけなので、結局は「何だかなぁ…。」なまま終わってしまう。感動の名作と言われているらしいけれど、娘の行動がさっぱり理解出来ないし、おもしろいけれど一向に良い話でも、哀しい話でもないので、一体何に感動するのだろう?

☆☆★★★

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