ガス燈
2012年06月08日 金曜日パトリック・ハミルトンの戯曲の映画化「ガス燈(Gaslight)」。
叔母の謎の死の説明から始まり、それにまつわるサスペンスかと思って見ていると、それは置いときながら新婚生活へと話が行き、特に何か起こる訳でも無く、サスペンスなのか、夫婦の関係の物語なのか、イングリッド・バーグマンの悩みの話なのか話の芯が掴み切れず、物凄くフワフワした感じで進んで行く。何が起こるのか、展開が読めないと言えばそうだけれど、何が描きたいのかがいまいち分からないとも言える。話が見えて来るまでは、非常にじっくりと描き、見ている方を霧の中に追いやるのだけれど、話が見えて来ると、シャルル・ボワイエの恐ろしさと、間抜けさがはっきりして来る。自分の計画の為に、あれだけネチネチと洗脳し続ける根気と執念は恐ろしい。それ程しつこく、恐ろしいのだけれど、探し物が全然見つけられず、それ気付くだろうという見落としをし続け、何ヶ月も気付かない間抜けさ加減に結構脱力。
途中までは掴み所が無く、「一体この映画は何なんだ?」で興味を引かれるにも関わらず、見終わり思い返してみると、意外と真っ直ぐな展開だったりもする。しかし、イングリッド・バーグマンの変化しているのか、させられているのかの、見ている方まで不安にさせる展開は目が離せない。
1944年の映画なので、古さはしょうがないとは言え、他人が過去の事件をきっちりと説明台詞で説明したり、話し過ぎなのはどうしても安っぽくはなってしまう。ただ、白黒映画だからこそのガス燈の陰り、淡い光等、白黒の陰影の使い方は流石。
でも公園で二人が歩く場面は、それまで普通に外での撮影だったのに、一場面、急に背景が合成になっていたのは何なのだろう?
イングリッド・バーグマンは徐々に壊れて行く、呆けた表情の上手さは、まさに女優。これでアカデミー賞主演女優賞も分かるモノ。
シャルル・ボワイエの、初めは情熱的な男性だったはずが、何時の間にか冷たく、素っ気無く、薄ら恐ろしい男になっている演技も雰囲気を醸し出している。
この映画は、犯罪映画、推理映画としては、見終わるとあっさりし過ぎているのだけれど、中盤からのイングリッド・バーグマンへの追い詰めと、脅迫観念からの追い詰められっぷり、それを使っての最後の告白までの部分は非常におもしろく、恐怖を感じる所。ここは今でも十分通ずる恐怖のサスペンス。
☆☆☆★★