愛染かつら 総集編
2012年05月16日 水曜日1930年代の映画は海外でも多いけれど、元のフィルムの一部消失で完全な形で残っている物が無いという事が多々あり、これも元々は前編・後編で公開されたけれど完全なモノが無く、二つを再編集し総集編とした「愛染かつら 総集編」。
話は、子持ちの看護婦と医院長の息子とのメロドラマ。1938年(昭和13年)の映画なので、まあもっちゃりしている。二人のそれまでの関係が分からないまま、プロポーズとも取れる愛染かつらデートで行き成り恋愛が始まり、子供思いの母親かと思ったら、病気の娘見捨てて駆け落ちしようとし、早過ぎる展開を見せるけれども、その後はグッタラグタラ各人の探り合いで特に何も無く、かと思ったら行き成り歌手になっちゃうし、展開の調子や描き方の分量が変なのは編集編だからか、まあ仕方ないのか。
周りの人は分かり易く、はっきりと行動するのだけれど、田中絹代はイジイジ、ウジウジしている上に、恋愛物語のヒロインと言うよりは、一物抱えたおばはん顔なので、「こいつは本当は策士なんじゃあないか?」と変に疑って見てしまう。
時代が時代なので皆喋りがきっちりし過ぎで、言葉が硬い。普通に喋っていても、ニュースフィルムで見る様なアナウンサーの実況や、政治家の演説の様な常に平板な喋り。まさに昭和初期の余所向き言葉。言葉ってやっぱり変わるモノなんだなぁと関心。
余興で琵琶弾いたり、金色夜叉演じたり、この当時は普通に見られても、今じゃあもはやコント。
演出的にも、人物は正面できっちり納める、台詞は舞台劇の様にはっきりと喋る、結構長回しかと思ったら、短くカメラ割ったり、いまいち減り張りや統一感が無い。しかし、「カメラに体を寄せて真っ暗にし、そこを編集点に真っ暗な背中から始まる」という編集技法を使っていて、この時代からこれ使っていたのかと関心。
音楽は昭和歌謡なので、緊迫する場面でも、哀しい場面でも、同じ様な調子のポップさで、今見ると拍子抜け。
服装は着物と洋服が半々位の、丁度西欧化の移行時期。男性は、きっちり七三、八二でテカテカな髪と、テクノカットの様な揉み上げの短さ、ダブルブレストのスーツで、ニューロマンティック。まあ、ニューロマンティックがここら辺の時代から持って来ているんだけれども。
総集編なので、二人の関係性が何だかよう分からんまま、始まりと終わりが急過ぎる展開で中盤ほぼいらない、行き成り感満載になってしまい、物足りなさばかりになってしまっている。戦前の名作と言われているけれど、完全版が無い今ではこれ見てもそれは良く分からないし、完全版が無いので将来に渡り評価が不可能で伝説になってしまう映画だろうなぁ。
☆☆★★★