人情紙風船

2011年12月19日 月曜日

1937年の山中貞雄監督の「人情紙風船」。

江戸時代の長屋の人々の日常を描いた映画。
まるで落語の世界を垣間見ている様だが落語の様に面白可笑しい話ではなく、むしろ哀しく、虚しく、哀れな日常を描いている。
始まりからして長屋で首を括った後の長屋の人々の顛末からで、何も変わらず泥沼に落ちて行くチンピラと邪険に扱われただ立ち尽くす浪人の話が中心で、どちらも侘しくなって行く。
危険に自ら踏み込む人間は今も昔も追い詰められるし、はっきりとした身分階級が立ちはだかり、特に製作年の1937年という時代を反映してか一部の特別な階級の人の不幸は結局一時期の話題で庶民達は自分の生活に戻るし、群像劇として江戸時代の社会の無常さを見せる。
終わった後の陰鬱さに成程と頷き、心に響き渡る。
これを今見ていると生きて行くには面倒だし、住み心地としては良くないので江戸時代は嫌だと思ってしまう。
壁が薄く隣の行動は筒抜け、近所の人の覗き見根性は強く、でも面倒は避ける。
武士は面子ばかりで、面子の為に死んで行く。
昔は良かった…なんて思い出補正と嫌な面を見ないだけで、江戸時代だけでなく1937年に比べれば今はどれだけ良いか。

この映画が良いのは話だけではなく、セットや小道具等良く出来ていて現実志向。
汚れたり、破けた長屋の人々の家や服装や家財道具。
一方金持ちの家の小奇麗さ。
まるでそこで本当に人が住んでいる様な動きや奥行。
雨上がりの濡れた水溜りのある道等、本当であろう現実の様な江戸時代の世界を見せている。
ただ、惜しむらくは音声。
録音技術の問題だと思うけれど皆何を喋っているのか判り難い所が多い。
それに声が小さく、音量を上げると声に乗った雑音まで上がるのでやっぱり聞き難い。

黒澤明や小津安二郎、溝口健二と言えば名監督と知られ、その映画も有名だけれど、山中貞雄やその映画「人情紙風船」はそれ程知られず一部で知られた存在だと言う事も知らなかった。
山中貞雄の生涯作全26作で、この「人情紙風船」撮影後日中戦争で戦死し、監督映画も三作しか現存しないという非常に恵まれず目にする機会が少な過ぎる為それ程知られていない。
しかし、これだけ素晴らしい映画を残しているのに余り知られていないのは勿体な過ぎる。
この「人情紙風船」も白黒の日本映画の名作としても何ら不思議ではない位映像的にも良く出来ているし、話的にも心に残る。

☆☆☆☆☆

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