インセプション

2011年04月06日 水曜日

クリストファー・ノーラン製作・監督・脚本、レオナルド・ディカプリオ主演の2010年のアメリカ映画「インセプション(Inception)」。

ドミニク・コブは他人と夢を共有出来る機械を使い、その人の夢の中で情報を盗み出す産業スパイだった。
ドミニク・コブは実業家サイトーから情報を盗み出す事に失敗したが、アメリカで逮捕状が出ている為に子供が待つ家へと帰る事が出来ないドミニク・コブの逮捕状を取り消す替わりに、サイトーの競合相手の企業を経営する男の息子に会社を解体させる様な記憶を植え付ける事を依頼された。

日本では「レオナルド・ディカプリオと渡辺謙が共演!!」という話題で大きく取り上げられていた「インセプションInception)」。
この話題性と、予告や宣伝のCGの大掛かりな映像で「どうなの?」と心配な感じはあったが、さすがはクリストファー・ノーラン。話の多重構造の展開と言い、場面転換の編集の上手さと言い、登場人物達の立ちっぷりと言い、非常に良く出来ている。
他人の夢に潜り込み、相手を騙しながら情報を引き出したり、相手の行動を支配しようとしたり、何段階にも夢の中で夢に潜るという結構複雑な構成だけれども、新人の加入という王道的説明方法を使い観客には意外と丁寧に説明し、最終的には「どうぞご自由に」と投げっ放すしで、見易くもあり、映像的にきっちりと語るので上手い所を突いて来る。
全体的な話は「マトリックス+スパイ大作戦+007+ゴースト/ニューヨークの幻」を混ぜこぜにした感じ。雪山のアクション場面は「あっ!007!」と思った程007。

特に上手いのが伏線を伏線と思わせず忍ばせておき、後から「あれをここで持って来るのか。」と感心する展開を見せる。
コマとかの小道具もそうだけれど、レオナルド・ディカプリオが抱えている個人的問題と記憶のインセプションという別の話の軸を最後に繋げて成程と思う話の関連は脚本が抜群に上手い。

編集も夢の中の夢の中の夢と分かりにくくなる構成を分かりやすく映像で分からせる為の繋ぎ方とか、ちゃんと見る方へ向けての丁寧さがある。

映像ではあの歪む町並みとかも夢だから何でも出来るけれど夢だと気付かせない為にやらないという言い訳が出来ていて、下手にCGバリバリの異世界にせずに、現実なのか夢なのかというこの映画の題材を殺さない程度の見せ方も上手いし。
それにホテルでの上下左右が激しく回る場面も古典的なセットを回しての撮影ではあるけれど、ちゃんとカメラが前後に移動し、動き回る人物を追っかけて撮っているのにも感心。更に技術を足して、きっちりと新たなアクションも見せている。

話と映像は良く出来ているので、じゃあディカプリオと渡辺謙は?となると、ちょっと二人が弱い感じも。周りの人物達が良く出来ていて、見せ場も豊富なので相対的に弱く感じられてしまうのかもしれないが。
ディカプリオは美少年感が溢れた若者と渋さが出て来る中年の間の年頃で、元々童顔なのもあってか、おっさんなんだけど妙に若々しく見える近年の雰囲気がどうも微妙な感じに思えて、もっと年取ったら渋くて重みが出て良い俳優になるのにと思う。

渡辺謙は最初のいかにも欧米人が好みそうなニホンのお城と内装、そして渡辺謙の分かり易い特殊メイクで映画に萎えかけ、なかなかの重要人物として頻繁に出ては来るけれど、周りが英語人ばかりの中でどうも余り英語が上手くないまま喋るので演技が下手に見えてしまう。「渡辺謙って、こんなにわざとらしく大袈裟で演技下手クソだったけ?」と思ってしまう位。
ただ今回は胡散臭い日本人役だったのでこの喋りや演技は問題は無いのだろうけれど、毎回謎の東洋人じゃあ役の幅が狭くてそれ以上にならないから、やっぱりどれだけ英語を訛り無く話せるかで役も違って来るんだろうなぁ。

他のチームのメンバーもそれぞれが見た目からも役が立ち、それぞれがちゃんと見せ場があり、非常に気持ち良い。
この各登場人物達の設定や配役も上手い。
ハリウッドの有りがちな展開では、直ぐにメンバーが意味も無く死んだり、実は裏切り者だったとか、安っぽい盛り上げ方をするけれど、この映画ではそれを全然しないのも良かった部分。

ただ、チームのメンバーが全員カッコ良く見え、インセプションした相手も救われて良かった…みたいな感じになっているけれど、考えれば皆で寄ってたかって一人の人に偽の記憶を植え付けて渡辺謙を儲けさせたという、倫理も無く自分勝手なクソ野郎共でしかないんだよなぁ…。
だから、最終的にディカプリオが抱えていたわだかまりも消え、子供達にも会えたって、余りにディカプリオに都合が良過ぎで、「コマはずっと回ってろ!」と思ってしまったのだけれど…。

この映画、ディカプリオと渡辺謙が話題になるだろうし、そこに目が行くけれども、見終わるとむしろ監督・脚本のクリストファー・ノーランのあらゆる上手さに唸る映画だった。
 

☆☆☆☆☆

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