スタイビング教授の超古代文明謎解き講座 - ウィリアム・H・スタイビングJr.

2010年11月10日 水曜日

最近と言うか、二十一世紀に入ってからは大々的な「オカルト」や、「トンデモ本」の流行がほとんど無くなった様に思う。やはり、「1999年7の月~」で一大ブームになった「ノストラダムスの大予言(ミシェル・ノストラダムス師の予言集)」が当然の如くこけて、その後がやり難いからなのか、世間的に盛り上がらない分野になってしまった様に思う。最近だったら、「2012」という大作映画が作られそこそこ当たった「2012年人類滅亡説」も、「マヤ文明の暦の一つが2012年で終わっている!」と言う微妙な感じのモノで、他には「都市伝説」とか「スピリチュアル」とかこぢんまりした感じで、あんまり壮大なワクワク感が無し。

で、古本屋で「スタイビング教授の超古代文明謎解き講座」という本を見つけ、SF、ファンタジー等のフィクションでは良く扱われ、過去何度か流行った本気の「超古代文明」のトンデモ論批判本だったので買って来て読んでみた。
内容は、まさに現在の歴史以前に超古代文明があったいう説を、大学の歴史学部のスタイビング教授が懇切丁寧に検証、訂正して行くモノ。さすが考古学の専門家だけあって、トンデモ論に対して非常に詳しく問題点、矛盾点を淡々と述べて行く。著者は「専門用語をなるべく使わないで…。」と言っているが、年代の矛盾等は細かく指摘するので、読んでいてもよっぽどの興味を持っていないと置いて行かれてしまう所も。第4講でのティラ島(サントリーニ島)火山の噴火については、バリバリ学術的議論。トンデモ論批判本と言うより、学術的調査と研究に関する本の様になっている。

全ての講において良く取り上げられる既知の話があるのでそれ程目新しさは無かったが、トンデモ説に対する非常に丁寧で専門的な反論で面白く読め、さらに興味深く読んでのは第3講の「ノアの箱舟は発見されたか?」と、第4講の「アトランティス大陸は海に沈んだのか?」。
ここでは、それぞれのトンデモ論が誰のどの様な論に影響を受けて変容していったかや、そのトンデモ論に対する聖書の学術的な研究、考古学や地質学の発見や研究の歴史が述べられている。この学問の歴史、流れは、スタイビング教授の考古学者としての真面目さと、第6講でも指摘している学術的知識の普及を目指す志から来る記述で、他のトンデモ本批判本とは毛色が違い「なるほど!」と関心と感心。

また、最後の第6講「奇説と『体制』」でもスタイビング教授の思いが出ている。
ここでは奇説を信じる人、信じたい人の心理を解説し、かつ科学者に対する批判も行なっている。信じたい人はどんな事実があろうと信じるので仕方がないが、そうでは無い人、「知性面で注意力に欠ける人」に対する専門家の努力不足を指摘、嘆いている。簡単に言えば、「専門化が時間の無駄と奇説を相手にしない事が現状を作っている」と。何故、スタイビング教授がこの本を書いたかという説明まで入った良く出来たまとめ。

この本は、詳しく丁寧に超古代文明論を検証している良く出来た本で、読んでいても楽しいのだが、一つ大きな欠点がある。それは、日本語版を出すにあたって本来原著にあった「古代アメリカへの渡航者」の章が丸々割愛されている事。その代わり、まとめの後に補講として、監修者の皆神龍太郎による「ベストセラー『神々の指紋』を検証する」という章が入っている。「スタイビング教授の~」と銘打っているにも関わらず、その著者の文を載せず別人の文章を掲載するなんて、何と言う蛇足、余計なお節介。この本を読めばスタイビング教授に興味が行き、第6講で上手い事完結した良い本だったのに、監修者の妙なでしゃばりによる終わった後の中途半端な補講で全てが台無しになってしまっている。

しっかりとして良く出来た本だけに、どうせなら完全版で読みたかったと思う。

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