孫文の義士団
2021年09月30日 木曜日テディ・チャン監督、ドニー・イェン主演の2009年の香港・中国映画「孫文の義士団(十月圍城/Bodyguards and Assassins)」
1906年の香港。豪商のリー・ユータンは革命家の孫文を支持する団体に寄付をしていたが、息子が革命思想に共感して運動に加わる事は認めていなった。
そこに中国各地の指導者と蜂起の会議をする為に孫文が香港にやって来る事になった。
それを知った清王朝は孫文を殺す為に暗殺団を香港に送り込んだ。
孫文を護衛するはずだった一団は暗殺団によって殺されてしまった為、リー・ユータンは孫文を守る為の義士を集め始めるが暗殺団の注意を引く為の孫文の身代わりがリー・ユータンの息子に決まってしまった。
孫文が会議を行う一時間の間だけ暗殺団の攻撃をかわす為の作戦が開始された。
Amazon プライムビデオの配信が終わりそうで、ドニー・イェンが出ているというので見てみた。
前半中盤はたっぷりと激動の時代の岐路にいる登場人物達の背景と想いを描いてリー・ユータンを中心とした群像劇の人間ドラマが展開し、終盤で今までの登場人物達対暗殺団の対決のアクションになるというちょっと変わった構成で、重厚かつ娯楽カンフー映画が合わさった様な映画になっている。
中盤まで各人の背景や思いを描いて終盤の孫文護衛作戦に至る理由や気持ちを見せて戦いを盛り上げる為の丁寧な振りをこれでもかとやるけれど、結構分かりやすく死亡フラグを立てまくりで、泣きに持って行く脚本や演出があざと過ぎて、見ていても「ああ、死んじゃうのね…」とちょっと覚めてしまった。
死亡した時に名前と出身地と年齢が出て来る演出は笑ってしまった。
最後の孫文が泣いているのも登場人物達が死んで行ったから風だけれど、孫文は登場人物達とほぼ顔も会わせていないので、終わりの演出があざとく感じてしまった。
詳しく各登場人物を描いている割に描かれずに分からない部分も結構あり、リー・ユータンは孫文派を支援している割に初めは革命に興味が無い風で、むしろ迷惑がっている様な感じで、息子の運動も大反対で、じゃあ何故支援していたの?と疑問に感じてつまづいてしまった。
ドニー・イェンも一介の警察なのにやたら強いのは何故?とか、子持の元妻が大金持ちの側室になっているのは何故?とか、鉄扇使いのリウ・ユーバイは過去に言及するけれどアヘン中毒でほぼ運動もしていないのに何故あれだけ強いのか?とか、敵の将軍もかつては西洋の教育を受けたけれど何故か清朝について、何故あれだけ強いの?とか、説明不足な部分が結構あり、思わせ振りな人物にする為に設定を後から放り込んだ感じ。
終盤の戦いでは重力無視・人間技を超えた香港カンフーアクションになり、これはこれで各人に見せ場もあっておもしろいのだけれど、それまでの真面目な人間ドラマからすると物凄く浮いてしまっていて、娯楽カンフー映画に行ってしまった事が仇になってしまっている。
娯楽カンフー映画が目的だと、そこまでが結構長過ぎだし、人間ドラマが目的だとこのカンフーアクションが邪魔に感じてしまい、上手く混ざり合っていない気がした。
ドニー・イェンはまだそこまでに身軽さや暗殺団との確執も描かれていたけれど、鉄扇使いは行き成り出て来て一人ではっちゃけた立ち回りをして、この人物もアクションも少年漫画的武侠映画的なやり過ぎ感があって、特に浮いていたし、他の登場人物との関りも薄くて、この人物だけ後からねじ込んだ感じがしてしまった。
役者陣はドニー・イェン以外はよく知らないので特に先入観も無く見れたけれど、多分もっと役者を知っていると、この人がこの役しているのか。とか思えておもしろいのだろうとは思った。
あの長身の臭豆腐役のメンケ・バータルって、バスケットボール選手だと後から知ったけれど、ずっとスリムクラブの真栄田賢に見えて仕方なかったし、リー・ユータン役のワン・シュエチーはにゃんこ祭りでお馴染み桐畑トールに見えて仕方なく、ワン・シュエチーがやたらと驚く顔が多くて、ずっと桐畑トールが顔芸していると思えてしまってニヤニヤしながら見てしまった。
敵の将軍役の人って、禿げ頭の辮髪で眉毛も無くて、てっきり映画「少林寺」や「少林寺2」で悪役を演じていたチー・チュンホワ(計春華)だと思っていたら、フー・ジュン(胡軍)という人で全然別人だった。
この役はチー・チュンホワの影響ってあったのだろうか?
一つどう判断していいのか分からなかったのは、この映画が孫文を守るのが題材なので孫文が素晴らしい人として描き、多分孫文の考えをそのまま描いているのだろうけれど、それって傍から見ると今の中国共産党への皮肉にしか思えなかった事。
中国共産党は孫文の意思を引き継いでいるのだ…なのか、そこに中国共産党への批判や皮肉を上手く仕込んでいるのか、どっちなんだろう?
この映画、歴史の大きなうねりの中ので生きた人々を描いた人間ドラマの群像劇としては結構あざといけれどおもしろくはあり、それとは別物としてカンフーアクションもドニー・イェンのパルクールみたいな逃げる場面とかのアクションもおもしろくはあったけれど、人間ドラマとしてはアクションはやり過ぎで浮いていたし、アクションを見せるにはそれまでが長過ぎて間延びした退屈さを感じてしまうし、もっとどっちかに割り切った方がいい様に思えてしまった。
わたしはカンフーアクションが好きで、そこ目当てで見たけれど、カンフーアクションを切り捨てる位の人間ドラマに振り切ってもよかった様な気がした。
☆☆☆★★