ロスト・マネー 偽りの報酬

2021年08月02日 月曜日

スティーヴ・マックイーン製作・監督・脚本、ヴィオラ・デイヴィス主演の2018年のアメリカ映画「ロスト・マネー 偽りの報酬(Widows)」
1983年から1985年にかけてイギリスで放送されたテレビドラマ「Widows」を基にした映画。

シカゴで市議会議員選挙が間近に迫る中、議員候補のジャマール・マニングの選挙資金が盗まれたが強盗を働いた犯人達は警察に殺されていた。
その犯人の中の一人の妻ヴェロニカ・ローリングスは教員組合の代表を務めていて真面な人間ではあったがジャマール・マニングから盗まれた金を返せと脅された。
命の危険を感じたヴェロニカ・ローリングスだったが金の在処は知らない為、夫が残した手帳から次に計画していた大金の強奪を自分が実行して金を返そうと計画。
他の犯人の妻達を集めて強盗計画を練り出した。

Amazon プライムビデオで配信が終わりそうだったので見てみた映画。
出演者欄にリーアム・ニーソンコリン・ファレルロバート・デュバルの有名な俳優の名前が出ていたので見てみたのだけれど、てっきりこっちの役者陣が中心となって話が進んで行くモノだと思いきや、原題の「Widows」の通り未亡人達の群像劇で、相変わらず邦題をつけている日本の配給会社は何を考えているんだか、考えていないんだか…なんだけれど、犯罪者の残された妻達が夫の尻拭いをするという題材はおもしろいし、未亡人達のそれぞれの境遇や人生を見せ、市議会議員選挙の候補者同士の汚いやり合いもあり、それを非常に間を取った思わせ振りな映像と演出で見せて行き、中々見所が多い映画だった。

未亡人達の背景が様々に描かれつつ、強盗計画を始めた事で自分も変わり始めて、人生の変化を見せる人間ドラマになっているし、市議会議員側も代々地盤を引き継ぐコリン・ファレルは父親の代から変わりたいと考えていたり、政治家になった事を後悔して辞めたいと思っていたり、黒人候補も単に差別側や貧困側の代表ではなく、新たに楽して金を稼ぎたいという動機だったり、弟を使って殺しもいとわなかったりと、どちらもどっちな描き方というのもおもしろい。
数多く登場する人物は特に説明も無く急に登場し、その人物を徐々に描きながら全ての人物が強盗事件に関わって行くという上手い繋ぎ方で見せていて脚本は良く出来ている。

ただ、後から思い返すと、主人公は金を返して命は安全なの?弟を殺してしまっているのに町から離れなくてもいいの?とか、強盗が終わると市議会議員候補の二人は全く登場せず、あのやり合いは結局どうなったの?とか、市議会議員候補の話を結構描いていたのに強盗が終わるとそっちだけになっていて、結局は市議会議員候補側の話におざなり感を感じてしまった。

市議会議員候補の話ではこの舞台になっているシカゴの地域の変化や選挙戦での票集めも描いており、古くからの住人の白人議員が地域に増えている裕福ではない黒人層の票を集める為に公共事業もしていたり、黒人が主になっている教会の神父の動向が選挙に左右するとか、ここら辺の選挙戦は興味深かったけれど、候補者二人共が部下に殺人も含めた犯罪も構わないというのが映画の本筋の為しょうがないとは言え、殺人までとなるとやり過ぎ感や作り物感が出てしまっていらない気もした。
この選挙戦だけでもっと社会派の別の映画になりそう。

演出は妙に間を取る演出で、クライム・アクションに振れる題材だけれど非常にアート系映画っぽくて、その感じが変な緊張感を生み出している。
演出で一番おもしろかったのが、コリン・ファレルが黒人地区で宣伝をした後自動車に乗り込み、自動車に付けたカメラでそのままワンカットで町中を走って自分の家まで戻るシーン。
裕福な白人の政治家の家と黒人地区の距離感の近さやどういう町なのかを見せるには抜群に上手いし、その自動車の中での会話でこの市議会議員候補はどういった人物なのかを見せるにも上手かった。

役者陣は、ヴィオラ・デイヴィスやエリザベス・デビッキミシェル・ロドリゲスは役柄や演出もあるけれど、何かを抱えつつ生きている犯罪者の妻という演技が皆上手い。
特にエリザベス・デビッキの変化の感じが非常に良い。
それにエリザベス・デビッキって大きいと言うよりも長いなぁ。
コリン・ファレルやロバート・デュバルも良かったけれど、リーアム・ニーソンは出番が少ないと言うのもあるんだけれど、始まりからリーアム・ニーソンのキスを延々と見せられてもなぁ…で、全然だった。

この映画、派手なクライム・アクションになってしまう様な題材を印象的な抑えた感じで見せて、監督のスティーヴ・マックイーンのやり方が見れておもしろい映画。
ただ、それまで描いて来た事が強盗を過ぎると無くなってしまう感じがハリウッドのアクション映画によくある最後に主人公が敵を殺したら全てめでたしめでたし感を感じてしまって、もう少し何か描いて欲しかった気がした。

☆☆☆★★

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