コミック王の従軍物語

2020年05月03日 日曜日

2017年にフランスで制作されたドキュメンタリー「コミック王の従軍物語(Kirby at War)」

題名の通り、アメコミ界の”キング”ことジャック・カービーが第二次世界大戦で従軍した話を中心に、ジャック・カービーが描いた作品を分析して行く。

録画はしてあったけれどずっと見ないままで放置していたので見てみた。

わたしはアメコミやジャック・カービーには興味はあるけれど、第二次世界大戦の個々の戦闘に関しては興味が無かったのでそもそも乗り気じゃなく、しかもジャック・カービーの伝記としては第二次世界大戦での従軍がほとんどと物凄い限定的なので、ジャック・カービーを知るという部分では物足りなさが強かったし、ジャック・カービーの経験した戦争とジャック・カービーの作風を絡めて行く展開にもいまいち感が強かった。

導入のジャック・カービーがコミックブック業界に入って描き始めた部分は非常にあっさり。
ウィル・アイズナーがカービーを雇ったという話は出て来て関心があったけれど、ウィル・アイズナーとの関係の話はそれだけで終わり。
直ぐに徴兵され、フランスでの戦闘の話になり、キングとしてのジャック・カービーの始まりの物足りなさったらない。

見始めてアメリカ人のジャック・カービーの伝記を何でフランスが製作したのかと思ったけれど、ジャック・カービーの部隊がフランスのドルノで戦闘したからなのかと納得。
ここでは第二次世界大戦の時の実際の映像や写真と、その写真の場所の現在を撮影して見せていて、その部分では非常に見せる演出にはなっているのだけれど、戦闘の実写再現映像では敵からの攻撃や爆発がアメコミ風のアルファベットの擬音付きのカラフルな画で表示され、悲惨で凄惨な戦闘なはずが妙にポップになってしまっていて逆効果だったりする。

この戦闘でのジャック・カービーの経験が後のジャック・カービーの作風や表現に影響しているという話になって行くのだけれど、これが見ていても「本当に…?」となってしまう。

ジャック・カービーの描いたキャラクター達は常に戦っている(スーパーヒーローモノだしなぁ)

戦場の兵士はスーパーヒーローだから、ジャック・カービーの描いたキャラクター達は人間には無いパワーを持たせている(スーパーヒーローモノだしなぁ)

戦争のトラウマから悪夢を見て、その悪夢からモンスターを作り出した(本人が言ってたの?)

妻を熱烈に愛したからロマンス・コミックス生み出したのかもしれない(本当に?)

投降したドイツ兵と出会い、そこからスーパーヴィランというコンセプトを生み、ドクター・ドゥームやダークサイドといった冷酷な独裁者を作り出した(そうなの?ダークサイドの性格はアドルフ・ヒトラーやリチャード・ニクソンなどの暴君的権力者かららしいけれど)

自分の近くで起こった爆発や血飛沫がカービー・クラックルになった(研究者によれば従軍以前の1940年の「Blue Bolt #5」で原型があるらしい)

塹壕足で足を切断するかもしれなかった経験からプロフェッサーXを生み出した(決してドゥーム・パトロールのチーフのパクリではないらしい)

これらを話しているのが精神科医とかコミック好きの人達で、別にジャック・カービーの証言でもないので全然すんなり入って来ない。
どこまで本当で、どれだけジャック・カービーが頷く話なんだろうとずーっとモヤモヤしっぱなし。
戦争とジャック・カービーの作風を絡めるのが前提でこのドキュメンタリーを作っているだろうなので、他人による分析を全部繋げて行かないといけないのではあろうけれど、家族の証言とか、同時代の編集者やライターやアーティスト達の証言ならまだしも現在の精神科医やマニアの主張でジャック・カービーを分析されても説得力として弱いよなぁ。
これってフランス制作の限界だったのだろうか?

まあ、ジャック・カービーが従軍当の時に手紙に描いたスケッチとかが見れるという部分では凄い興味深くはあったけれど、あくまで中心はジャック・カービーの従軍部分で、キングとしてのジャック・カービーの伝記を期待して見ると大分物足りなかった。

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