アウトロー

2016年07月20日 水曜日

クリストファー・マッカリー監督・脚本、トム・クルーズ製作・主演の2012年のアメリカ映画「アウトロー(Jack Reacher)」。
リー・チャイルドのジャック・リーチャーが主人公の小説シリーズの9作目「アウトロー(One Shot)」が原作。

長距離から五人を無差別に狙撃する事件が起きた。容疑者は直ぐ逮捕されたが何も話さず、「ジャック・リーチャーを呼べ」とだけ要求。ジャック・リーチャーは元米軍憲兵隊捜査官で、現在は誰にも追跡が出来ない様な流れ者となっていたが、この事件を知り突如検事や刑事の前に現れた。
ジャック・リーチャーは容疑者を憲兵時代に捜査しており、実際に人を撃ち殺していたが無罪で釈放した過去があった。
容疑者は輸送中に暴行を受け意識の無い中、容疑者を弁護するヘレン・ロディンと共に事件の捜査を始めると不可思議な部分が幾つも出て来始め、ジャック・リーチャーにも尾行や罠がある事に気付き始める。

トム・クルーズ製作・主演で、「アウトロー」なんて題名なので、てっきりアクションや犯罪映画かと思っていたら、弁護士と共に事件の真相を探って行く捜査モノだったのが意外。
その地味に一つ一つの証拠を辿って事件の真相に近付いて行くという前半から中盤の展開は、トム・クルーズ製作・主演でも硬い捜査モノで非常におもしろかった。
特にトム・クルーズ演じるジャック・リーチャーは常に冷静で観察眼が鋭く、攻撃を受けても無敵の強さで敵をかわして行く様は、探偵物と俺様最強アクションとが非常に上手く融合したおもしろさが存分に出ていて、サスペンスとしてもアクションモノとしても非常に良かった。
ただ、終盤になると、ハリウッドの有名俳優が主演のサスペンス映画ではやたらとある、結局それまでの緊張感を無視するかの様なこれまで粗製濫造されて来たアクション映画の様なしょうもない展開で締めてしまうのが物凄く残念。
敵の正体が分かり始めて、それまでの展開からだと、その敵に対し、どうやって罪を暴くのかが見所になるのかと思いきや、相棒を人質に取られ、敵が集まる所へ乗り込んで行って皆殺し…って。特に最後の本来の狙撃犯をどうにでも出来る状態にしておいて、そこからトム・クルーズとの一対一の殴り合いにしてしまうなんて馬鹿みたいな展開。そんな事はそれ専門家のスティーブン・セガールに任せておけばいいじゃん。
それに、それまで散々凄腕の狙撃手として描かれ、事件では動く標的を一発も外す事無く仕留めたはずの本当の狙撃犯が、銃を撃ってもトム・クルーズにもロバート・デュヴァルにも全然当たらないとか、もうコメディじゃん。

何より、終盤をこれまでの見飽きた様な安っぽいアクション映画にしてしまっているのがロバート・デュヴァルの存在。
オープニング・クレジットで名前を見つけたのに中々登場せずに忘れた頃の終盤で出て来て「おっ!こういう使い方なのか。」と楽しんだけれど、最後の銃撃戦ではジャック・リーチャーは詳しい事情を話さないのに何でそこまでして人殺しに協力するの?とずっと疑問。
で、またこのロバート・デュヴァルが無敵の凄腕なものだから、ジャック・リーチャーとヘレン・ロディンの事件捜査だったはずなのに急激に雰囲気が変わってしまったし、ロバート・デュヴァルがデウス・エクス・マキナ感しかしなかったし。

それに敵のボスも何だか凄い雰囲気と過去を持っているけれど、じゃあそれが今回の事件の原因となる理由は何の?に関しても何だかよく分からないままで、その凄みで有耶無耶にされた感じはあるし、何よりも実は敵と繋がっていた刑事に至ってはその理由は本当に有耶無耶だし、後から思うとこの人物いなくても十分成り立っていたと思ってしまう位、最後の意外性だけの為の人物だったり、ヘレン・ロディンと父親の関係性も最後のどっちが味方で敵なのかだけの為に作られた揉め事で、結局何で揉めていたのかとかも分からず仕舞いだし、そもそも何でジャック・リーチャーは誰にも知られない様に放浪生活を送っているのかがこの映画だけでは何も見えて来ず、「どう?カッコ良いでしょ、この主人公」的な安っぽい人物設定にしか思えず、各登場人物の描きの薄さが非常に微妙な所。

実は原作者のリー・チャイルドも出演しているそうだ。
ジャック・リーチャーが警察から釈放される場面で、「民主党に投票をせず…」と言っているジャック・リーチャーとヘレン・ロディンの間で座って聞いている警察官がリー・チャイルド。へー…だな。

あと、この邦題は何?
原題の「Jack Reacher」は小説がシリーズ化されており、映画もシリーズ化を狙っての一作目で「Jack Reacher」は分かるし、原作小説の「One Shot」も分かるけれど、邦題の「アウトロー」って、ジャック・リーチャーは最後の最後でアウトローではあるけれどそれまで大してアウトローでもないので、それを題名にするか?と思うし、結局映画の題名としては弱くなってしまっているしで、やっぱり近年の邦題って全く上手くないよなぁ。
この続編「Jack Reacher: Never Go Back」も2016年の秋に公開されるらしいけれど、一作目の邦題を「アウトロー」にしたくせに、この続編の邦題は「ジャック・リーチャー NEVER GO BACK」になるそうで、まあ、お粗末な事に…。
「アウトロー」って邦題つけたアホは左遷させられたり、首になっていないのかなぁ?

この映画、やっぱりハリウッドの有名俳優のサスペンス映画は導入の掴みが上手く、中盤までは非常におもしろいのに、最後になると型にはめたかの様なハリウッドのアクション映画に落ちてしまうという所から抜け出せなかった映画。
原作を読んだ事無いので、この終盤の流れがどうなのかは分からないけれど、トム・クルーズ製作・主演でなければ最後までもっと満足出来たかも?と思ってしまった。

☆☆☆★★

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