アパートの鍵貸します

2015年12月13日 日曜日

ビリー・ワイルダー製作・監督・脚本、ジャック・レモン主演の1960年の映画「アパートの鍵貸します(The Apartment)」。

大きな保険会社の平社員C・C・バクスターは人の良さに付け込まれ、上司達にアパートメントの自分の部屋を又貸ししていた。愛人を連れ込む上司達を余所目に時間を潰し独り身の生活を送っていたが、彼が気になっているエレベーターガールのフラン・キューブリックが部屋を貸している上司の愛人だと知ってしまい、それでも断れない彼は部長に部屋を貸してしまう。

寂しい人の良い男の恋愛コメディなんだけれど、今見ても寂れる事無く人々が活き活きとし、古びない人々の感情と行動が見れ、コメディとしてもクスクス、ニンマリ出来る程良い笑いで、非常に心地良いし素晴らしい映画。

始めはバクスターは部屋を又貸しする事によってお金を貰ったり、それによってごますり、昇進を狙っている策略的な人物かと思っていたら、ただ人が良くて巻き込まれる様に部屋を貸していると分かり、この主人公に一気に魅力が出て来て、ずっと彼に魅入りっぱなし。
モテない独身男性が昇進も期待出来るし、隣人からはモテる男と思われていて、現状はそれなりに良く思っていた前半のコメディから、気になる女性が部長の愛人だと分かりつつも自分には向いてもらえない事が分かり、それでも良い人としてキューブリックに接する哀しくも愛らしいバクスターの恋愛劇をずっと見せる脚本の上手さとジャック・レモンの演技が光る。
会話劇も受けを狙い過ぎない笑いを混ぜ込んだ魅力的な会話が続き、王道な展開とは言え、ずっと飽きさせず次の展開が気になる流れ。そこにコメディアンとしてのジャック・レモンが常に引っ張りながらも時々見せる深刻な表情や哀しみの顔があり、恋愛悲喜劇として完成している。

ジャック・レモン演じるバクスターは、「何でそこで本当の事を言わないの?」と思う場面が多いけれど、求められるし昇進も出来るから良いか…と思っている中にも、自分の気持ち通りに生きたくもあり、どうしようも出来ない今までの生き方もあっての非常に普通な人物で、彼の感覚を共有出来る様な人物になっている。
一方のフラン・キューブリックも、好きになってはいけない人を好きなってしまい、どれだけ酷い相手かと突き付けられても想い切れない人物で、両人とも喋りが明るく冗談交じりではあるけれどもどちらも哀しさのある人物。
特にジャック・レモンの明るさからの暗い顔なんて、まさにバクスターを的確に表現している演技で素晴らしい。ジャック・レモンって歳を取ってからの印象が強いのだけれど、ジャック・レモンってコメディアンなんだな。表情や動き等、今でも全然コメディアン。このジャック・レモン見ていると、ジム・キャリーってこのジャック・レモンを目指してコメディアンかつ演技派を目指している様な気がした。
フラン・キューブリック演じるシャーリー・マクレーンはショートカットの髪型で、この時代の女性の髪形からすると異質なので目立つ。
しかし、フラン・キューブリックが惚れた部長は本当に酷い奴。そこまで自分勝手な人物なので、よりバクスターの人の良さが滲み出てしまう効果にもなっている。

それにしても、この時代の管理職ってやたらと不倫しているな。テレビドラマ「マッドメン」でも、あっちゃこっちゃで不倫しまくっているけれど、この映画に影響受けているんだろうかしらん?

この映画、登場人物や事物を過不足無く話に盛り込み、王道ながらも次を見たくなる展開や、洒落ているけれどそれ程狙った感じのしない楽しい会話。それに活き活きと演じられる登場人物達と、今見てもおもしろかったし、古びれない力がある。

☆☆☆☆★

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