グリーン・デスティニー

2014年12月12日 金曜日

アン・リー製作・監督、チョウ・ユンファミシェール・ヨーチャン・ツィイー共演の2000年の中国・香港・台湾・米国合作武侠映画「グリーン・デスティニー(臥虎藏龍・Crouching Tiger, Hidden Dragon)」。
王度廬の武侠小説「臥虎蔵龍」が原作。

伝説の剣士リー・ムーパイは修行が嫌になり引退を考えていた。彼は同門の妹弟子のユイ・シューリンに自分が使っていた伝説の青冥剣を預ける為、知人に預ける。ユイ・シューリンは長官の娘イェンと知り合うが、イェンによって青冥剣を盗み出される事を知り、リー・ムーパイもやって来るが、彼の師匠を殺した碧眼狐も現れる。

この「グリーン・デスティニー」、アカデミー外国語映画賞取ったりと評価が高い様だけれど、武侠映画で良くある緩さと言うか、微妙さと言うかが結構あって、もっとおもしろい武侠映画あるんじゃないの?と思ってしまい、その高評価がいまいち分からない。

話は青冥剣を巡る人々の人間模様で男女間の恋愛も描いているけれど、どれも漫画みたいな気恥ずかしさで笑ってしまう。ミシェール・ヨーは好きな人が殺され、その彼の親友だったチョウ・ユンファに想いを言い出せないと言うのだけれど、ミシェール・ヨーはこの時38歳、チョウ・ユンファ45歳で、40歳前後のおっさんおばはんの言い出せない恋愛って、見て来ても厳しい。
チャン・ツィイーの方は、親が決めた結婚が近いけれど、以前襲われた男前な山賊の親分と両想いとか、完全に少女漫画の世界。中盤で行き成りこの二人の出会いが描かれるけれど、見ていても気恥ずかしい事を真剣に描き、しかも20分位も延々と描き続けて結構退屈。この思いっ切り恋愛場面が丁度後半にかけて盛り上がるはずの中盤なのに、ここが一番ダレて、つまらなくなってしまう構成も微妙な点。この恋愛場面は必要以上に時間取っているのに、良い所のお嬢さんであるチャン・ツィイーがどうして碧眼狐に出会って、何故碧眼狐がチャン・ツィイーを教え込んだとかは全然描かれておらず、見せる所違うんじゃないの?とも思ってしまう。
加えて全体の構成も何だか微妙。初めチョウ・ユンファが出て来たから、彼が主人公で進むのだろうなぁ…と思っていたら、序盤はずっとミシェール・ヨーとチャン・ツィイーの関係性で進み、進んだのにチャン・ツィイーとチョウ・ユンファの師弟に関する話になったと思ったら、チャン・ツィイーと山賊役のチャン・チェンの話になり、各人物達の話が同時並行的に進む訳でなく、それぞれの話が終わったら次は別の話という流れで、どうにも散漫な感じがしてしまう。それらの話がスッと次々と移って行けば気にならないのに、見ていると「あれ?今までの話は?」と気にかかるばかり。導入からしてチョウ・ユンファとミシェール・ヨーの物語かと思ったら、何時の間にかチャン・ツィイーの話ばかりになってしまっているし。群像劇にしては各人の配分が変だし、チャン・ツィイーが主役みたいだけれど主役としても配分は良くないし。

それに一番の大きな欠点はワイヤーアクション。カンフーの方は役者も非常に上手いし、見せ方も興奮するけれど、ワイヤーアクションが本来なら役者の動きを補助するモノなのに、ワイヤーの動きが先行し、それに合わせて役者が動いている為に動きが不自然極まりない。この映画、武侠モノでは非常に真面目に作っているのに、ワイヤーアクションになると途端にファンタジーを超えて、ワイヤーアクション・コントになってしまう。逃げ出そうとしたチャン・ツィイーが跳び上がり、チョウ・ユンファが彼女を引っ捕まえているのにチャン・ツィイーが空中で静止している場面で最早訳が分かんなくなってしまった。この世界では修行すると空も飛べるという「ドラゴンボール」的ファンタジー世界なのかとも思えるけれど、完全に空を飛べる様でもなく、跳び上がった時は時々地面に足をつかないといけいない様で、あくまで跳ねている様だしで、さっぱり意味が分からない。多分この映画で一番有名な竹林での戦いは、見ていても訳が分からな過ぎてボーっとして来るし、コント的で笑ってしまう。体の支点が足ではなく上半身にあるって…。この映画のワイヤーアクションって、今までのワイヤーアクションに対する皮肉の為にやっているのだろうか?と思う位、わざとらしくて馬鹿馬鹿しい。
他にも笑わそうとしているのか、真面目なのか分からない所も。自分の武器を敵に投げて受け止められて、逆に投げ返されて頭にぶっ刺さって死んでしまうとか、チャン・ツィイーが男装していれば男として誰もが見るとか、軽そうな槍でも一撃で机を叩き壊したりして武器の重さ軽さの見た目の感覚の訳の分からなさとか、演出意図が分からない。これって単に、真面目な場面や映画自体真面目なのに、急に笑わしたいのかどうなのかよく分からない変な笑いをぶっ込んで来る昔からの香港映画でよくある伝統的手法なのか?アン・リーのせいなのか?

興味が行くのは中国の剣。日本刀だと硬くて刃が鋭かったり、西欧だと大きくて硬いか、突く剣は細くてしなる印象だけれど、この青冥剣は鋭くもあり、しなる柔らかさもある映画で良く見る中国刀。この剣って、突くのか、切るのかよく分かんないし、剣がビヨビヨすると直ぐ折れそうで強い剣に見えないし、日本刀的感覚からすると全然ピンと来ない。

それと字幕が結構酷い。人物名は、チョウ・ユンファ演じるリー・ムーパイやミシェール・ヨー演じるユイ・シューリン等の人物の名前はそのままカタカナで表示していて、李慕白や兪秀蓮という字幕的には文字数の少ないから良いはずの漢字では表示されず、一方で伝説の剣グリーン・デスティニーは「青冥剣」と表示された上に「グリーン・デスティニー」と振り仮名が振られるけれど、その後は「青冥剣」で表示されるし、敵役である碧眼狐は何故か「ジェイド・フォックス」と英語名で振り仮名が振られており、統一性が無くグッチャグチャ。

チョウ・ユンファは現代劇だと全然カッコ良く思わないし、劇団ひとりにしか見えないんだけれど、この辮髪姿でカンフーするチョウ・ユンファはカッコ良い。リー・リンチェイもそうだけれど、こういう悟った様な静かな剣士や戦士って、それだけでも美味しい役。
チャン・ツィイーが長官の娘役で出ているけれど、この当時まだ21歳で若いからか、垢抜けないしあんまり綺麗でもない。地方役人の娘役にはぴったりだけれど、これって役作りなのかどうなのか?

この映画、アカデミー外国語映画賞を取ったとかの情報が無くても、それなりな武侠映画として見れたのかは疑問。話があっちゃこっちゃ行って、変に散漫なのは武侠映画らしさと言うか香港映画的な部分もなのかもしれないけれど、それにしても連続テレビドラマの総集編的なまとめ感が強く物足りないし、カンフーは良いのに真面目な全体な雰囲気とはかけ離れてしまうワイヤーアクションはやり過ぎで白けるしで、何でこの映画がアカデミー外国語映画賞を取っただけでなく、作品賞や監督賞にノミネートされてかが疑問。中途半端な娯楽武侠映画じゃん。

☆☆★★★

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