秘剣ウルミ バスコ・ダ・ガマに挑んだ男
2014年12月10日 水曜日サントーシュ・シヴァン製作・監督・撮影、プリトヴィーラージ主演の2011年のインド映画「秘剣ウルミ バスコ・ダ・ガマに挑んだ男(Urumi)」
現代のインドの青年は鉱山会社から、ある地域の土地は彼の先祖の物であり、今は彼が所有者である事を知らされ、高値で売って欲しいと持ち掛けた。青年は土地を売る気で現地に行くが、その土地で学校を開いている人達に「環境破壊にも繋がるから売らないで欲しい」と言われる。しかも、その土地に住む人々に拉致され、彼の祖先がどうしてこの土地を手に入れたかを聞かされる。
16世紀のインドではヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を開拓し、インドで香辛料を求めて残虐に支配力を強めて行った。ケールは父親をヴァスコ・ダ・ガマに殺され、父親と一族の復讐と残虐なポルトガル人の支配からの解放を目指してウルミという剣で戦っていた。
主題はインドで好き放題、傍若無人なヴァスコ・ダ・ガマ率いるポルトガルの進攻に対し、父親の復讐で戦う気高き戦士という時代劇アクション映画。弱気を助け、強気を挫く男前な主人公の復讐劇であり、恋愛もあり、政治的な駆け引きもありと王道な話なうえに、アクションでも見せるという非常に娯楽映画の王道を行く映画。映像的にも見せるし、欧米のアクション映画を色々研究して作っているのだろうとも思わせる様などこかで見た事ある感じの演出もあるし、インド側から見た欧米という部分もあり、非常に興味深い所も多い中々良く出来た映画。そして、最後まで見るとこの映画、完全に武侠映画だと気付く。あの切ない爽快感があって、見終わって泣きそうな気持ち良さ。時代劇と現代を繋いだ意味も見えて来て、構成も中々上手い。
序盤から主人公の戦いを次々と見せ、この映画の背景や見せたい事がはっきりとしているので非常に観易いし、一気にのめり込んで行く。それぞれの登場人物達もはっきりと役が立ち、香港映画的なアクションもあって非常に漫画的な際立ちで楽しい。ただ、中盤までは良い流れで一気に見せたのに、中盤以降が政治的な話ばかりで急にアクションが途絶え、主人公さえ登場しない場面が多くなり、一気にダレてしまうのが痛い所。
映像は非常に調子が良く、見ていて飽きないし、気持ち良い。傾けた構図、早いパーン、捻る様な寄り、多用されるスロー、短く繋ぐ編集等々は非常に小気味良く、香港映画辺りのアクション映画が好きなんだなと思わせる。それに加え、アフレコで台詞が入っているとか、真剣な話なのに結構コメディ的な部分やコメディリリーフがいるという部分でも、香港のアクション映画を見ている様。それに、短くイメージ映像的なカットを挟み込んで印象的にしているのもおもしろい。この監督のサントーシュ・シヴァンって、相当香港映画やハリウッドのアクション映画を研究している感じ。
アクションも、飛んだり、空中で回転したりと香港のカンフー映画や武侠映画的なんだけれど、カラリパヤットという打撃や武器を使って相手を捻ったり捩じったりする様な関節技や投げ技もある武術を使うので、殴る蹴るのハリウッドのアクション映画や香港のカンフー映画とも違う感じで、見ていても新鮮味があっておもしろい。剣も、香港映画ではビヨビヨと曲がる剣も登場するけれど、この剣は本当に鞭の様にフニャフニャに曲がって、鞭の様に振り回しながら斬るという見た事のない剣で戦うのもおもしろい所。ただ、役者があんまりアクションが上手くないのはちょっと欠点ではあるけれど。
おもしろいのは音楽の演出も。ポルトガル側の話の時は、如何にもハリウッドの時代劇で使われる様な男女混成の声楽と壮大なオーケストラ。インド側は、たぶんシタールや太鼓の音で、自分達の言葉(ヒンディー語?)での歌が流れる。この使い方はハリウッド映画だと普通のスコアと、雰囲気を変える”オリエンタル”な曲という対比になるけれど、この映画では敵の胡散臭さや恐怖を煽る音楽が欧米音楽で、インド的な音楽が自分達にしっくり来る普通の音楽となっていて、場所が変われば当たり前に聞いていた音楽でも何時もとは逆になる事に気付かされるが興味深い。
それにインド映画なので、ちゃんと劇中に行き成りの歌と踊りの場面もしっかりとある。所謂ミュージカル映画なんだけれど、欧米のミュージカル映画はどれもクソ位にしか思わないわたしなのに、この映画のミュージカル場面は凄く気に入った。音楽は良いし、歌も余り聞いた事のない言葉の発音と乗せ方で凄く心地良いし、踊りも格好良いし楽しいし、カメラの動きも良い。この序盤のミュージカル場面が良かったので次も期待したのに、これの一回切りで後が無く、後から思うとここだけ凄く浮いた場面になってしまっていた。
この映画のどの位までが史実なのか分からないけれど、歴史で習うヴァスコ・ダ・ガマと言えば「偉大な冒険家・航海士」と思うけれど、そりゃあインド側からしたら迷惑な侵略者でしかないというは当然の話。歴史の多面性を気付かせる題材で、それをアクション映画に取り入れて娯楽映画の敵役として扱うのも上手い使い方。
この映画、インド側から見た欧米というのを、ヴァスコ・ダ・ガマだったり、音楽や演出からも見せて、ハリウッド映画ばかりだと普段意識しない部分で逆の意識を持たせるので非常に興味深いし、アクション娯楽映画としても中々良い出来。ただ、それまで流れる様に話が進み、アクションもバンバン見せていたのに、中盤以降急にアクションも少な目になって、主人公が活躍しなくなり、話もダレてしまうので尻つぼみ感は否めない。
調べてみたらこの映画、本来は3時間もある長編映画みたい。3時間もあるとは結構キツい様な気もするけれど、見終わってみると、もっとアクションも見てみたいし、ミュージカル場面ももっと欲しかったしで3時間の完全版が見たくなる映画でもある。
☆☆☆☆★