バグダッドの盗賊

2014年12月09日 火曜日

ルドウィッヒ・ベルガーマイケル・パウエルティム・フェーラン監督、ジョン・ジャスティン主演の1940年の映画「バグダッドの盗賊(The Thief of Bagdad)」。

バグダッドの王アーマッドは宰相のジャファルにはめられ、投獄され殺されそうになるが、同じ牢屋に入れられたアブーという盗賊の少年と一緒にバスラへ逃げ出す。アーマッドはバスラの姫に一目惚れするが、バスラの城を訪れたジャファルと出会い、ジャファルが姫を妃にする為と自分の陰謀を隠す為、魔法を使いアーマッドを盲目に、アブーを犬にしてしまった。

「アラビアン・ナイト」を基としたファンタジー映画なんだけれど、前半はアーマッドのどうして目が見えなくなったのかの境遇を長々と説明するので非常に退屈。特にファンタジー映画らしさも無く、ダラダラと振りばかりが続く。そんなファンタジー映画なのにファンタジー要素も無く、盛り上がりに欠ける展開だったのに、一時間位も過ぎてからは突然ジャファルが魔法をバンバン使い出し、壜に閉じ込められた魔神をアブーが僕にして千里眼を盗みに行く冒険モノになったりと、急な舵の切り返しで展開が唐突で変。それに、前半は完全にアーマッドの恋愛物語で、アーマッドが主人公でアブーはお供の少年位の扱いだったのが、後半になってからはアブーが冒険やファンタジーを担って完全にアブーが主人公になってしまい、前半と後半では全然雰囲気が違ってしまう。「バグダッドの盗賊」だからアブーが主役になるのは分かるけれど、だったら前半のアーマッド寄りの展開は何なんだ…?となってしまう。ここら辺は監督が何人もいて、それぞれが別々に撮って行ったからのバラバラ感なんだろうか?
その前半部分は、本来ファンタジーならアクションや不可思議な事を詰め込んで掴みにしなくちゃいけないだろう所を、始まってから一時間程は派手な部分が全然無く、どちらかと言うと恋愛モノの歌劇になっているが興味深くはある。何度か急に状況説明や心情説明を歌で歌い始め、完全にミュージカルをやっている。だけれど、後半になると特に歌も歌わなくなって、その歌劇風も完全に放棄してしまい、結局意味不明な場面になってしまっている。しかも、映画全編を通じて常にオーケストラの演奏が鳴り続けて、非常にうるさい。本当に鳴りやむ暇も無く音楽が続き、特にオーケストラの音が延々続くので聞いていると頭がおかしくなりそうだった。

ただ、セットや衣装は素晴らしい。衣装は極彩色で、ピンクだの、淡い緑色だの、鮮やかな青、白い衣装に赤いターバンとか、今見ても色鮮やかで非常に映えるし印象的。
そしてセットは何処まで奥行きがあるの?と思える程とにかく広い場所にセットを建て込み、外の場面のセットでは本当に芝を引いたり木を植えてあったりと、今見るとその豪華さに驚くばかり。王宮とか岩山とか良く出来ているし、「仏像の原寸大のセットまで作るんだ!」と驚きだし、何よりほんの一場面位でしか使っていない牢獄のセットが非常に広いのにキチンと作ってあって、「何故そこまでこだわるのか?」よりも、「牢獄なんだから小さい部屋にすればそんな大きなセット作らなくても良かったんじゃないの?」と思える位、この映画、相当お金と手間暇をかけているはず。

あと、何故か知らないけれど、中東を舞台とした古い欧米のファンタジー映画ではカーリーを出したがるけれど、この映画でもカーリー風の顔を青く塗った六本腕の女性の機械?「銀人形」が登場。見た目が怪しくて雰囲気はあるけれど、椅子に座った女性の後ろに二人、人がいて、腕を伸ばしてカーリー風に腕を動かすだけなのでおもしろくはない。「シンドバッド黄金の航海」のレイ・ハリーハウゼンのカーリー像はやっぱり凄い。

アーマッドを演じるジョン・ジャスティンは物凄く今風な男前。勝手な印象では1940年前後の男前って、ハンフリー・ボガートとかクラーク・ゲーブルの様な濃い~いおっさんだと思っていたのに、ジョン・ジャスティンの優男の感じって当時はどういう感じで受け止められていたんだろうか?
ヒロインである姫を演じているジューン・デュプレって、美女を見慣れた王様が一目惚れする役なのに綺麗でもない。この配役は設定が中東の姫だからとか、当時の美人の基準とかあるのだろうけれど、さっぱり理解し得ない配役。

この映画、掴みの部分で目の見えない主人公が回想して理由を明かして行くという引きのある構成にしているのだけれど、その回想部分がダラッとだらけてつまらなく、全然ファンタジーでもないので、前半で挫けてしまった。一時間も過ぎてからドンドンとファンタジーを入れ込んでは来るけれど、巻き返すには遅過ぎ、退屈さに我慢出来なかった。ただ、この映画はセットの豪華さを見るべき映画ではある。

☆☆★★★

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