NEXT -ネクスト-

2014年09月25日 木曜日

リー・タマホリ監督、ニコラス・ケイジ製作・主演の2007年の映画「NEXT -ネクスト-(Next)」。
原作はフィリップ・K・ディックの短篇小説「ゴールデン・マン」。

二分先の未来が見えるクリス・ジョンソンは、彼の能力を利用して核爆弾を持ったテロリストを捕まえようとしているFBIに追い駆け回されるので逃げる。

フィリップ・K・ディックの短編を以前に読んでいて知っていて、この映画が「ゴールデン・マン」が原作と知り、この映画の公開時「『ゴールデン・マン』が原作なのに、ハゲてる中年のアメコミ好きの家庭内暴力役者ニコラス・ケイジが主演って、どうなの?」と思っていたけれど、「ゴールデン・マン」を読み直してからこの映画見たら、やっぱり全然違うじゃない!全身金色に塗った半裸のニコラス・ケイジが草原を疾走する映像を期待していたのに…。
短編小説の「ゴールデン・マン」の粗筋としては、

六十数年前に大きな戦争が起こったらしく、その時から突然変異したミュータントが人間から生まれ始めたので政府はミュータントを捕獲し、近年ではミュータントはほとんどいなくなっていた。しかし、片田舎の農場で18年間育ったクリス・ジョンソンは、髪の毛から皮膚、目、体毛まで全身金色のミュータントで、家族の誰とも口をきかなかった。その存在を知った政府の取り締まり官が彼を捕獲。研究所で調べてみると、クリスは起こる出来事を全て予め知っていた様に行動していた。

という話で、クリスは幾つもの存在しうる未来を見ているけれど過去を理解出来ず、動物的反応で生きている存在として描かれている。この短編では、未来を知っている事よりも彼の黄金の外見の方が実は脅威というのが大事な所で、フィリップ・K・ディック自身の後書きにもあるけれど、「人間を超えた存在は人間など気にもかけないのではないか?」という事への不安という、異質な者との共存や排除とは違った角度から描いた小説。
その「ゴールデン・マン」が原作なのに、映画は二分先の未来を見る事が出来る予知能力者がテロリストを見つける為にFBIに協力する話になってしまっている。多分、「ゴールデン・マン」の映画化権を買ったは良いけれど、そのまま映画にするのが難しいから「未来を見る」という部分だけを使って映画に仕上げた感じ。なので、主人公がクリス・ジョンソンという名前以外は全然違ってしまっているのだと思う。「ゴールデン・マン」では未来の見え方も、無数に未来があり、先の未来はぼやけていて見えず、各映像を選んで見るという、同じフィリップ・K・ディック原作の映画「マイノリティー・リポート」のトム・クルーズが指先で映像を操作していた感じに近い。

映画自体は、クリス・ジョンソンが未来を知る事が出来るとどうやってFBIは知ったのか?とか、テロリストはやたらと人殺ししているのに、それに気付かないFBIはクリス・ジョンソンを探すよりもテロリストを探す方に力を入れた方が良いのでは?とか、クリス・ジョンソンは数百万人が死ぬかもしれないと言われているのに何でそこまで必死にFBIに協力しないのか?、そもそも見る未来は自分で見たい時に見れるのか?それとも何か重大な時だけなのか?見る基準は?とか、物凄く穴ばかりな設定で、なんだかなぁ…な脚本な上、テロリストの阻止というサスペンスで話を進めているのに、急にニコラス・ケイジの恋愛話を挟み込んでしまい話がつまづくし、色んな事が温い上に展開が散漫。四十過ぎのはげて来ていて、何だか変な髪型になっている面長のおっさんと一日過ごしただけて、FBIの忠告よりも彼の事を信じるというよく分からない女性との恋愛劇なんているのか?

演出も上手くなく、後半になると未来を見ている場面がやたらと少なくなり、未来を知っているからこういう風に動いている、戦えているというよりは、単に強い人にしか見えない。…と思ったら、急に複数の未来を探索している映像を出して来たりと、忘れていたからここ入れておきましたな感じを受けてしまう変な配分。

この映画で一番驚いたのは、「刑事コロンボ」でお馴染みピーター・フォークが出ている事。コロンボの印象しかないからおじいちゃんのピーター・フォークにびっくり。ピーター・フォークが出てはいるけれど序盤の少しだけで、ピーター・フォークも「出す必要ある?」という他の事と同じ様な意味が分からない扱い。

この映画、未来が見える人が犯罪者の行動を先回りして対応するというだけでサスペンスとしては中盤まで逃げ回るだけで何も無いし、こんな題材なのにやたらと恋愛部分を長く見せて本筋はおざなりだし、脚本の雑多さ、絞り切れていなさが露呈しまくっている。
近年のフィリップ・K・ディックの原作映画は、映画界の大物が関わると小説の上側の要素だけを使ってハリウッド方式の映画にしてしまう為に酷い出来になる。これもそう。

☆★★★★

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