英雄十三傑

2026年06月09日 火曜日

チャン・チェ監督・脚本、デビッド・チャン(姜大衛)主演の1970年の香港映画「英雄十三傑(十三太保 The Heroic Ones)」。
倪匡の小説「十三太保」が原作。

唐末期。黄巣が反乱を起こして首都の長安を占領した。
唐は長安を取り返す為に沙陀族の軍閥であるリー・クーヨン(李克用)に反乱の平定を命じた。
リー・クーヨンには十三人の養子がおり、四弟リー・ツンシン(李存信)の提案によって長安での黄巣暗殺計画を決定し、十三弟のリー・ツンシャオ(李存孝)の指揮の下、九人が長安へと向かった。
九人による暗殺はツンシャオの命令をきかなかった四弟ツンシンと十二弟カン・チュンリ(康君利)の独断行動で失敗してしまった。
帰還した九人をリー・クーヨンは迎い入れ、敵陣をかき乱したツンシャオを褒め称える一方、四弟ツンシンと十二弟カン・チュンリを死罪にしようとするがツンシャオの助言で死罪を免れた。
リー・クーヨンの成功と出世を疎ましく思っていた総督のチュー・ウェン(朱温)はリー・クーヨンを倒す為に四弟ツンシンと十二弟カン・チュンリを利用しようと目論み、やがて十三兄弟の仲に亀裂が入り始める。

何度目かの昔の香港映画に興味が湧いた時期が来たので幾つか古い香港映画を見ていて、その中でジミー・ウォングの映画を続けて見ていたのだけれど、ジミー・ウォングの映画で配信していたモノはもう全部見てしまったので、「大女侠」や「片腕必殺剣」等のジミー・ウォングの映画を監督していたチャン・チェの映画を見てみようと思い見たのがこの映画。

初めから時代や歴史の説明があるので史実を基にした映画だと分かるけれど、この辺りの歴史には詳しくないので、そうなのねで見てみたら歴史を知らずとも分かる内容で、大人数での剣劇はまあまあおもしろいものの話は構成がどうなの?なので見終わると結構いまいちだった。

始まりは主人公側を描き、主人公となるツンシャオがどういう人物なのかを見せるのだけれど、これがどうにも乗って行けない。
皆挑発的で、酒をガブガブ飲んでガハガハ笑って暴れている田舎のチンピラ感が物凄く、どちらかというとこの主役側が敵っぽい。
なので、本来なら主人公として見て行くはずの側に全然身が入らず、序盤でこれどうなの?と思ってしまった。

そこから長安に向けての移動や長安での戦いになり、十三人兄弟なのに何故か九人しか行かないという疑問もありつつも、九人対大人数戦のチャンチャンバラバラの剣劇は1970年の映画と思うと中々おもしろくはあった。

その中で四弟は暗殺作戦を提案したのに十三弟に取られたというのはあったものの、急に四弟と十二弟が勝手に行動したり、女性を襲ったりして仲違いが起こるのだけれど、それまでで四弟と十二弟の葛藤や想いがほとんど描かれないのでこれまた付いて行けず。
この中盤以降の兄弟の分裂話の方が断然おもしろかったので、もっと前段階で各人の気持ち等の描写が無いと入って行けないのにとてもなおざりなので色々唐突に感じたし、話が盛り上がらなかった。
四弟と十二弟がチュー総督側に付くようで付いておらず、結局はチュー総督がリー・クーヨンの命を狙う事になるし、四弟と十二弟の狙いは十三弟だけになるので、この四弟と十二弟の動きもいまいち盛り上がらないまま。

何と言っても、終盤でこれまでの主人公だった十三弟が四弟と十二弟の策略で馬に引かせて五体バラバラという「ひー…」となる最後が出て来て、そこからどうするのかと思いきや、今まで少ししか登場していなかった一番上の兄が、同じくほとんど顔すら見せていなかった他の兄弟達と共に四弟と十二弟への敵討ちに行き、そのまま終わって行くので主人公不在のままで結局何だか分からない話の終わってしまい、何だこりゃな感じが一杯。
企画や案を出してとにかく作り出したので後半での心情の説明の為の前段での描きが少ないのかなと思うし、観客に受ける為にとにかく剣劇を多くとか、それが何かになる訳でもない長安での十三弟と女性の関係を入れるとかになってしまったのかと思ってしまった。

こういう史実に基づいた映画となると、どうしても実際はどうだったのか?が気になる所で調べてみたら、まず十三人が兄弟と言うのは当時は有望な人間を養子(仮子)という形で向かい入れる関係があったそうで、初めは十三人も子供がいるの?この時代ならありそう…と思ったけれど途中で養子だと言う話も出て来ていて、やっぱりそういう事となのかと分かった。
ただ、十二弟の話でまだ名字をもらっていないと言っていたけれど、実際にはこの十二弟と十一弟は李克用の養子ではなかったそう。
また、三弟は李克用の実子で、生まれたのは十一弟の死亡後だったそう。
長安を攻めたのは流石に九人ではなく李克用の大軍ではあったそうで、チュー総督(朱温。後に朱全忠)が李克用と争ったのも史実で、まあここら辺までの話は大体実際と同じみたいだけれど、一番の驚きは史実での十三弟の李存孝のその後。
十三弟の李存孝に嫉妬した四弟の李存信が李存孝に吹き込んで、十三弟の李存孝が寝返って朱温に付いて李克用と戦い、負けて処刑されている。
これを知ったら、えっー!ってなるでしょ。
あれだけ李克用に可愛がられ、十三弟の李存孝も信頼して戦っていたのに何がどうなったの?
寧ろこの映画での四弟の行動が十三弟だったとは。
そう思うと何でこの映画ではこの展開になったのかよく分からないし、史実ではどうして十三弟の李存孝がそうなったのかも不思議。
ちなみに四弟の李存信は史実ではその後も李克用の下におり、朱全忠と戦って負けており、最後は病死だったそう。
李克用は朱全忠との決着がつかないままで病死し、李克用の実子である三弟の李存勗が継いで後唐の初代皇帝となったけれど悪政によって十三人兄弟の一番上の兄の李嗣源が軍閥によって担ぎ上げられて二代皇帝になっている。
結局史実の方がより兄弟間の骨肉の争いが強そう。
チュー総督こと朱温の方は朱全忠と名乗り、唐側に付いており、自分の息子を唐の皇帝にして禅譲させて後梁の初代皇帝となり、その後病気に倒れた所を実子に殺されており、後梁も後唐に滅ぼされている。
流石に映画では描き切れないけれど史実通りでも凄い愛憎巡る話。

この映画、剣劇はまだ試行錯誤の時代だからか一つ一つはそんなでもないけれど大人数対戦は結構おもしろかったものの、常に人物の描きの足りなさ、いまいちさが出ていて、結局誰が主人公なのか分からない所に着地してしまって、何だかなぁ…で終わって行ってしまう映画でした。

☆☆★★★

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