東京五人男

2012年10月04日 木曜日

横山エンタツ、花菱アチャコ、石田一松、古川緑波、柳家権太楼といった戦前・戦後の喜劇人で作られた映画「東京五人男」。

太平洋戦争終戦直後の荒廃した東京で、全てを失い盗みは当たり前な荒んだ人々の中、何とか良い方に向かわせようとする五人の男達の奮闘。

この映画が凄いのは、太平洋戦争終結の1945年8月から三ヶ月後の11月に撮影が始まっているので東京の一面の焼野原が本物で、更にその時期にその時期の社会を皮肉的に描いた喜劇を作っている事。この時でも既に役所仕事で全然人々の役に立たなかったり、結局は金持ちや食料を持っている人が強く、多くの人が困窮している中王の様な生活をしていたりと、音楽的に笑かそうとする喜劇ではあるのだろうけれど話的には全然笑えず、むしろこの本当の世紀末感に恐怖する。現実の過去なのだけれど、この時期を体験していない身としては、最早平行世界の終末SF位の怖さ。
金持ち・物持ち・権力に媚びる人々、弱い人を足蹴にしたり、他人を見下したり馬鹿にしたりというのは今も大して変わりはしないが、焦土と化した周囲の景色と極端に差のある人々の生活の中では、余りに残酷で、見ていても泣きそうになって来る。そんな中でも真っ直ぐに、正しく生きて行こうとする主人公達ばかりなので、泣けて来る。それを演じているのがお笑いの人々なんだから、更に泣けて来る。
ただ、それまで社会風刺的な黒い笑いだったのに、終盤になると急にドタバタコメディになってしまうのが良くない。工業用アルコール飲んでおかしくなったり、ドリフ的に家が傾いたり。

演出は始まりからして、ハリウッドのオールスター映画で見る様な、劇中の場面を使った配役紹介だったり、ミニュチュアを使った特撮、焼野原の夜景等、非常に多彩で飽きさせる事は無い。

石田一松が出ていて、「誰だろ?」と思っていたけれど、行き成り「♪はは、のんきだね~」とバイオリンで歌い出し、「ああ、『のんきだね』の人って石田一松だったのか」と分かる。「♪はは、のんきだね~」は、何かで知っていたけれど、初めて見た。
それと、古川緑波が息子とドラム缶風呂に浸かる時に「♪狭~い、お風呂も~楽しい~我が家」と歌を歌うけれど、「この歌聴いた事あるな?」と思って調べてみたら、元は「My Blue Heaven」というアメリカの曲で、その日本語版「私の青空」の中に「狭いながらも楽しい我が家」と言うのがあるので、これが元か。たぶん、「私の青空」はエノケンこと榎本健一の歌で聴いた事があるのだと思う。

この映画は、本当の瓦礫の東京で撮影され、演説を打つ石田一松は実際この後の衆議院議員選挙に出て当選しているし、創作物としての映画以上の現実との関係がありドキュメンタリーに近く、この現実との差にクラクラして来る。最後の瓦礫の東京の中を希望を持って進む人々の姿は、今現在から見ると泣きそうな感慨。その分喜劇としては笑えないし、物質的にしろ、精神的にしろ、全てを失ったからこその真っ直ぐさや爽快さはなかなか分かり難い。こんな時代や人々を見ると、今が重くのしかかる。この映画、歴史的部分では凄いし、現実との繋がりは興味深いけれど、単に映画として見ればの展開としてはそんなおもしろい話でも無い。

☆☆☆★★

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