ペイチェック 消された記憶

2012年03月24日 土曜日

フィリップ・K・ディックの短編「報酬(Paycheck)」を基に映画化した「ペイチェック 消された記憶(Paycheck)」。

確かこれ、一回見た事あるはずで、その時もしょうも無い映画だったと思ったはずで、何がアカンのか確かめる為にもディックの原作をまず読んでから映画を見てみた。
原作の「記憶が消される」「謎のガラクタが残された」という主要部分だけを抜き取り、アクション・恋愛という原作とは関係無い部分を膨らました為に、どうしようもない映画になってしまった事が分かった。
原作は、SF短編小説らしいアイデアストーリーで、ガラクタが何故か上手い事役に立ち、ガラクタから自分の置かれた状況を理解して行くという推理小説的部分で惹きつけ、これまたSFの王道でもある社会批判、暴走する国家とそれから身を守れるのは大企業でしかなく、個人はそれに翻弄されるだけの存在で、じゃあ個人は如何に立ち回るのかが主軸になり、最後はディックらしからぬウイットに富んだオチで締め、にんまり出来る話。
それが映画では、推理要素はバラシが早く、成程感は皆無。タイムスクープの理由も実にしょうもなく、分かり易い単なる悪役と、説教臭い教訓で白けまくり。原作ではタイムスクープは推理要素の一ガジェットで、本質はディックらしからぬ希望の見える社会変革の為のガジェットでもある。
何よりもガラクタの使われ方も馬鹿みたい。しょっぱなで煙草の煙って、FBIアホ過ぎで一気に興醒め。あっさりFBI本部から逃げられるし。それに20品は多過ぎ。原作では7品で、必要な時にそっと置いてある様な感じであり、主人公も読者も成程と思いながら使われるのでにんまり出来るのだけれど、映画ではあんまりガラクタが多く、ここぞという時ではなく頻繁に使われるので使われ方の上手さも無く、見ていてもしょうも無くなって来る。ガラクタからそれが何なのかを考え、使う場所を判断する訳で無く、まるでそこで使う事を知っていたかのような都合良過ぎな使い方のも駄目な所。
脚本も下手クソ。始まりの段階で結構物語の核心を見せているので、後半の「一体どうして?」のワクワク感が無い。あと穴も多過ぎ。数千万ドル放棄してガラクタ沢山なら絶対怪しむだろう。原作だと以前にも何人もそんな人間がいたから詳しく調べられなかったけれど。それに記憶が思い出せるというのも中途半端。原作では物理的に消去、脳のその期間の記憶の部分を切り取るので思い出す事も無く、以前の自分を三人称で語ったりし、自分だけれど何でも知っている別人な消えてしまった自分との無言の会話の楽しさが無い。
それに恋愛物語にしたのも失敗。この追い駆けられている人間の安っぽいメロドラマなんて必要か?何よりベン・アフレックユマ・サーマンの恋愛劇って誰が見たがるのだ?
あと見た目の安っぽさも。主人公の記憶なのに、何故か自分自身も映っている第三者視点だったり、記憶も弄れるハイテクな近未来なのにビデオはVHSを突っ込んでいたり、タイムスクープのカメラワークやカット割りは誰がしてるんだとか。それに主題は推理モノ、サスペンスなはずなのにアクション場面はいるのかと思えて来る。ダラダラとめりはりの無い展開。なのに急なアクション場面。だけどベン・アフレックのアクションはもっちゃり。その為、標準以下のつまらないハリウッド映画にしかなっていない。全ての失敗はこの題材でジョン・ウーに監督させた事なんだろうけれど。
途中本売場が出て来るのだけれど、そこにディックの著書を分かり易く置いておく位のくすぐりがあっても良いと思うのだけれど。

折角の原作のおもしろさを台無しにし、こんなどうでも良い感じの映画見るなら、ディックの原作読むべき。
ちなみに「報酬」は、4冊出たディック傑作集の一巻目「パーキー・パットの日々」と、この映画に合わせて出された短編集「ペイチェック」に入っている。

☆★★★★

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