スタートレックII カーンの逆襲

2025年12月17日 水曜日

ニコラス・メイヤー監督・脚本、、ウィリアム・シャトナー主演の1982年のアメリカ映画「スタートレックII カーンの逆襲(Star Trek II: The Wrath of Khan)」
テレビドラマ「宇宙大作戦」のその後を描いた映画二作目。

宇宙艦隊の士官候補生の訓練艦となったU.S.S.エンタープライズではスポックが艦長となって若者達を教えていた。
訓練航行の査察としてジェームズ・T・カーク提督が同乗する事となったが、航行中に実験宇宙ステーションのレギュラー1にいるカークの元恋人の科学者のキャロル・マーカスからの通信が入り、自分達が研究しているジェネシス計画の装置をカークの命令を受けてU.S.S.リライアントが引き渡せと言って来たと抗議をして来た。
何も知らないカークだったが、ジェネシス計画の調査を行っていたリライアントが惑星セティ・アルファ5上でかつてカークによって追放されたカーン・ノニエン・シンが仲間の優生人類達と共に厳しい環境で生き残っていたのを見つけ、カーンはカークへの復讐を果たす為、リライアントの艦長と乗組員だったパヴェル・チェコフを洗脳してリライアントを乗っ取ってレギュラー1に迫っていた。

インターネットで色々調べていたらYoutubeで「宇宙大作戦(TOS)」の映画が無料で公開しているという情報を見つけ、一作目の映画「スター・トレック」を見たので続けて二作目も見てみた。

一作目が興行的には良かったので二作目制作となったけれど、一作目が内容的には余り評判が良くなかったらしく、それを受けてジーン・ロッデンベリーが外されて、宇宙船の見せ場を増やしたり、分かりやすい悪役の登場等映画的なおもしろさを取った映画にしたみたいで、それが確かに効果的で一作目よりもおもしろくなっていた。

始まりは、後年他のシリーズでも時々話題に出て来るコバヤシマル・シナリオからで、映画の意図としてはどんでん返し的な掴みの盛り上げ場面ではあるけれど「コバヤシマルはこれが初出かぁ…」と寧ろ感慨深く見てしまった。
コバヤシマルの話は知っているのでカークの攻略法も知っていて、引っ張ってのカークのやった事の意外性は無し。
しかし、この映画ではコバヤシマル・シナリオの描写が薄いので何がどういう状況でどうなっているのかが良く分からないので、お馴染みの乗組員達が死んでしまうという事位しか面白みが無かった。
それに、カークは二度挑戦して三度目でプログラムを変えたって、これって良く取ればカークが「正解が無いのでは…?」と気が付いたという事だけれど、単に「これ難し過ぎるからプログラム変えちゃえ!」だったら頭の良い馬鹿な悪ガキで、確かに若い時のカークってそんな感じもありそうではある。

各人の設定は一作目の映画から続いているはずなのにカークはまた地上勤務に戻っていたり、チェコフ以外の乗組員は訓練艦となったエンタープライズで訓練官となってそのまま残っているという前提で話が進んで行き、一作目のその後の説明が全然無い。
まあ、カークは危機に対する一時的な現場復帰だったんだろうけれど、スポックはヴァルカンでの修行止めて何で訓練官になっているの?だし、あれだけ現場復帰を嫌がっていたマッコイもすんなりいたり、何故チェコフだけ別の艦に乗っているの?とかの説明が一切無いのは凄い違和感。
展開でも宇宙船を暫く離れて地上勤務になっていたカークが久々にエンタープライズの指揮を執るのは一作目と同じだし、レギュラー1に行く為にエンタープライズが発進する場面は一作目とほぼ同じと言うか、本当に一作目のカットをそのまま使い回していたり、若い新たな乗組員のサーヴィックがいたりとか、この序盤のエンタープライズの展開ってまるで一作目が無くて、ここから新たな「宇宙大作戦」のその後を描く映画の始まりかの様。
何だか二作目にして映画シリーズのリブート、リスタートの様な感じがしてしまった。

この映画での敵は「宇宙大作戦」の「宇宙の帝王(Space Seed)」の一話だけに登場したカーン・ノニエン・シンを持って来ていて、この持って来方に関心した。
その後のスタートレックシリーズで育った身としては、やっぱり敵と言えばクリンゴンやロミュランになるかと思ってしまうけれど、そこに一話だけしか登場しなかったカーンを出すとは意外。
このカーンの選出って当時の「宇宙大作戦」を見ていた人達はどういう反応だったのだろう?
監督脚本のニコラス・メイヤーが「宇宙大作戦」を見た事が無くて全部見たらしいけれど、確かに気になるだけの存在感はカーンにはあったか。

そのカーンはただカークへの復讐だけで突っ走るので「宇宙の帝王」よりも分かり易い悪役にはなっているけれど強烈な存在ではあり、でも復讐に突っ走るので簡単にカークの挑発に引っ掛かってしまってしょっぱくもありで、凄く人間らしくなっていた。
カーンで疑問に思ったのは、あの洗脳出来る虫はあの星にはカーンに従う優生人類しかいないのに何で洗脳出来ると知ったのか?と、最後エンタープライズを巻き込んで自爆して復讐を果たそうとしてけれど、リライアントが爆発する前にカーンが死んでしまったっぽいので、カーンは「カークに復讐出来た!」で死んでしまって、カーンとしてはめでたしめでたしの死になったんじゃないの?という事。
カーンの最後に関しては、映画として最後までカーンを悪役として、その悪役を倒すのを描くなら、カーンが死ぬ前にスクリーンに映ったエンタープライズがワープして飛んで行って、カーンの「そんなぁ…」でリライアント爆発でカークとしてはめでたしめでたしになるんじゃないの?と思ったのだけれど、そこら辺のカーンの最後の描写が曖昧なので凄く中途半端に思ってしまった。
カーンで良かったのは、ハリウッド映画だったりカークだと最後に敵と殴り合っての決着に行きがちだけれど、この映画ではカークとカーンはスクリーン上では話をしていたけれど実際に顔を会わせる事が無かった事。
これだけ強烈な敵がいて、とにかく敵を殴って倒しがちだった「宇宙大作戦」のカークを思うと直接の対面が無いのはおもしろかった。

カークの変化で言えば、歳を取った話も出て来て、敢えて誕生日を出して歳を感じてしまうとか、老眼鏡を出したりと歳を強調していた。
一作目から三年後の映画とは言え、カークと言うか、ウィリアム・シャトナーが一作目から更に老けている感じはあったし、カークは一作目と比べると大分落ち着いた感じになっていたし。
一作目のカークがエンタープライズへの執着が強くて、本来の艦長になるはずだったウィラード・デッカーとやたらと張り合ってマッコイに説教されていた事を思うと急に大人になった感じ。
そもそも一作目のカークが権力使ってとにかく自分がエンタープライズの艦長をするんだ!と出しゃばる駄々っ子ぽさに違和感を感じたけれど、この映画での周りの人達が艦長はカークが相応しいと譲っても「いやいや」と断るカークの方が全然良い。
一作目の話も結構いまいちでカークの人物描写も思うと、やっぱりジーン・ロッデンベリーが外されて正解だった様な気がしてしまった。
新スタートレック」もジーン・ロッデンベリーの関わりが減って来た辺りからおもしろくなって行ったし。

他の人物はカーンの個性や存在が強いからかマッコイの活躍も余り無いし、スポックは行き成り特に前振りも無く死んでしまうし、カークとスポックとマッコイの漫才感が薄かったので物足りなかった。
スポック行き成り死んじゃうの?と思ったら、どうやら演じるレナード・ニモイが元々二作目に出演する気が無く、スポックが死ぬんならするよで出たらしく、それで突然死ぬ展開になったらしい。
だからスポックの活躍場面が余り無いのかと思ったし、一方で映画がシリーズ化になってやる気満々のウィリアム・シャトナーに合わせてかカークはやる気がドンドン出て行くけれど、そんなに乗り気じゃなかったレナード・ニモイのスポックが死んで終わりなのかとも思ったし。
でも、結局何だかんだでスポックは最後の六作目までで続けるんだけれどね。

新たな人物のサーヴィックは活躍しそうで大してせずで、良さそうな存在だったのに少々勿体無い気がした。
それにヴァルカン人なのに最後に泣いたけれど良いの?だったし。
ヴァルカン人って泣かないと思ったので調べてみたら、このサーヴィックって映画の中では全く出て来なかったけれどヴァルカン人とロミュラン人の子供という設定らしく、撮影前の脚本ではスポックの台詞での説明があったらしい。
だから時々驚いたり戸惑ったりした様な感じがしたのかも。

カークの恋人だったとして出て来たキャロル・マーカスって、この人もカーンみたいに「宇宙大作戦」から持って来た人だったっけ?と思って調べてみたらこの映画が初登場だった。
更にそのキャロル・マーカスとカークの子供デビッド・マーカスまで出て来たけれど、このデビッドの扱いも微妙。
カークがもしかして自分の子供かも?と思う様な描写はほとんどないし、父と子の対立を見せるのかと思いきやデビッドは単に研究の事で艦隊の人間を信用していないだけだし、カークとの和解も何だかよく分からない感じだったしで、何でわざわざカークの息子を出して来たんだろう?
他でもカーンとジェネシス計画や、そこに急なスポックの死とか、上手く噛み合っていない感じがしてしまったのだけれど、元々別々の脚本で企画されていた事を幾つか合わせたらしいのでこういう感じになっている所に、更にデビッドを出しての父と子の関係をやろうとしたけれど上手く描き切れなかっただけなんだろうか。

映像では、エンタープライズとリライアントの戦いは結構良かった。
「宇宙大作戦」では流石にここまで特撮や模型やCGなんて出来なかったので中々迫力はあったし、確かそれまで宇宙艦隊の船同士の戦いも無かったのでそこでもおもしろかった。
ただ、星雲の中で戦いの時、特に何の説明も無くエンタープライズがリライアントの真後ろに付けられるのは何で?とは思った。
説明が無いので何ともだけれど、あれだと映りの悪い映像を目視で確認して移動していたって事?
ここら辺はよく分からないSF用語で索敵して見つけられての移動が描かれていたらもっとおもしろかったのにとは思ってしまった。
互いに見えない同士で宇宙船で戦うのは「宇宙大作戦」でロミュラン相手におもしろくやっていたのになぁ。

あと、制服も一作目が無かったかの様に新たな制服になっていたけれど、こっちの制服は「宇宙大作戦」以降の制服として他のシリーズで見た事があったと思うので馴染みがあった。
一作目のやっぱりな寝間着感や地味な感じからするとこっちの方が断然良い。

この映画、まるで映画一作目が無かったかの様にカークのエンタープライズの艦長復帰と敵との対決になり、それを宇宙船戦での映像的にも見せていて、一作目無しでこっちから映画シリーズの始まりでも良い様な中々おもしろかった映画でした。

☆☆☆★★
 
 
関連:宇宙大作戦 シーズン123
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