東海道四谷怪談
2021年07月31日 土曜日中川信夫監督、天知茂主演の1959年の日本映画「東海道四谷怪談」
備前岡山藩の浪人の民谷伊右衛門は、お岩との結婚をお岩の父親に反対され、父親を説得するが断られて腹を立てて切り殺してしまう。
伊右衛門はお岩の父親についていた直助に入れ知恵されて別人を犯人に仕立て、伊右衛門とお岩、直助、お岩の妹お袖とお袖の許婚の佐藤与茂七の五人で偽の敵討ちの為に江戸へと向かう。
お袖に惚れていた直助は伊右衛門を脅して道中で与茂七を殺害。
伊右衛門とお岩、直助とお袖はそれぞれバラバラに江戸へと入り、伊右衛門とお岩の間には子供が生まれ、それぞれが夫婦として江戸で暮らす事となった。
ある日、伊右衛門は道端で絡まれていた武士を助け、その武士の娘に見染められて婿入りを願い出られた。
貧乏暮らしに愛想をつかしていた伊右衛門は婿入りを承知した事によってお岩の存在が邪魔になり、直助にそそのかされ、直助が調達した薬をお岩に飲ませて殺してしまう。
武士の娘と祝言をあげる伊右衛門だったが、伊右衛門には殺されたお岩の姿が見え始めた。
Amazon プライムビデオで配信が終わりそうだったので、かつ、同じ中川信夫監督、天知茂主演の映画「地獄」を見たので続けて見てみた。
実に嫌な話だけれど、映画としては非常に良く出来ていて、良作の怪談映画だった。
初めからワンカットの長回しで見せ、しかも画面の構図が会話している人達の真ん中に木を配置して意外性を持たせた目を引かす様な工夫をし、静かな入りから切り捨ててしまう盛り上がり場面までと、映像的にも話の展開的にもこの一場面だけでも抜群に上手く、この始まりで掴まれてしまった。
その後の主人公の伊右衛門は計画性も無く直助にそそのかされながら転落して行き、お岩に未練もありつつ殺してしまう、ただの非道な人間ではないという描き方で見せ、演じる天知茂のニヒルで冷酷な演技からも複雑な感情を抱えた人物になっていて、怖がらす為だけの怪談になっていない人間を描いている部分でも見せていた。
終盤になると一気に怪談の恐怖映画になるけれど、そこまでの人物達の描写があるので結構すんなりと入って来る。
それに、天井にお岩がいたり、直助を切った時には室内に池が出て来たりと、脅かしや幻視の見せ方も上手い。
怪談部分だけでなく全編に渡って陰影がはっきりしていたり、偏った照明にしていたり、カメラを真っ直ぐに置いて撮っていなかったりと映像的にも見せる。
ただ気になったのは、伊右衛門がお岩を殺してしまった後、結構直ぐに伊右衛門がおかしくなってしまった事。
伊右衛門が後悔や悩んでの行動だったとは言え、お岩が現れたら直ぐに切りつけるのは行動が速過ぎな気がした。
もっとお岩に脅かされてからの乱心なら、すっと入って行けたのだけれど。
この映画、誰もが不幸でしかないという部分では見ていて切なく、楽しいモノではないけれど、映画としては映像的にも展開的にも上手いし、興味の部分で非常におもしろかった。
怪談映画の傑作と言われているのも納得。
☆☆☆☆★