三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船
2014年11月12日 水曜日ポール・W・S・アンダーソン製作・監督、ローガン・ラーマン主演の2011年の映画「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船(The Three Musketeers)」。
アレクサンドル・デュマ・ペールの小説「三銃士」が原作。
17世紀のフランス。イギリスとの関係悪化の中でフランスの枢機卿リシュリューは、権力を手に入れる為にフランスとイギリスの開戦を狙い、フランス王妃の浮気のでっち上げようとし、王妃の首飾りをイギリスのバッキンガム公爵へと送ろうとしていた。田舎から出て来たダルタニアンは偶然三銃士達と出会い、彼らと共に陰謀を阻止しようとする。
「三銃士」にある程度は沿って展開しているのだけれど、監督が自分の好きな様にやってしまい「何のこっちゃ?」な部分が多く非常につまらない。原作を好きな様に膨らますのはいいけれど、全てにおいてやり過ぎな上、どれも見事にツボを外す。アクションも一瞬の見た目は派手だけれど、よく見て行くと全然良くない…と、これぞまさにポール・W・S・アンダーソン映画。
この映画、今までも何作も作られて来た「その時の時勢に合わせた『三銃士』の映画化」なんだけれど、見る人が「三銃士」を知っているという前提にしているのか、単なる脚本の不出来と適当さなのか、色々な事の説明を省いてとにかく短い時間の中に詰め込もうとしているので、まるで二時間の数話あるテレビドラマのミニシリーズの総集編の様になってしまっている。三銃士はどういう人達で、どういう状況に置かれているのか。ダルタニアンは三銃士に認められて、どういう扱いで一緒に行動したり、急にフランス国王と仲良く会話出来ているのか等々、粗筋を一気に流して見せている感じで全然話が入って来ない。
話自体も、三銃士とダルタニアンを中心に描くにしてはフランスを巡る陰謀が主軸になるので、中盤は国王や枢機卿の話ばかりになってしまい全然三銃士とダルタニアンが登場しなくなってしまい、主役達が脇役になってしまい誰もが脇役の様な中途半端な描き方にしかなっていない。三銃士とダルタニアンが本腰を上げて活躍し始めるのは一時間以上経ってからだし、要は「首飾りを取り戻す」だけの話だし、身近の人間だけで話を回している感じしかせず、映像的には派手にしてはいるけれど物凄いこじんまりしている。
話の構成も不味過ぎる。行き成り三銃士が何かを盗み出そうとしているというよく状況の分からない所から始まり、三銃士の仲間だと思っていたミラ・ジョヴォヴィッチが始まって10分も経っていない時点で三銃士を裏切ってしまうけれど、裏切りって驚きや意外性を出す為に使うはずなのに、序盤の序盤で状況も掴めないままの時に行き成り裏切っても物語の効果としては全く効果が無い。三銃士がお金が無くてまきも買えない…という貧窮した状態を描いた次の場面で、国王から乱闘騒ぎで叱られると思ったら、逆に勇気を称えられてお金を貰うとか、一体何の意味があったのか分からない振りとその解決を簡単にやってしまうし、本当に脚本が悪過ぎる。
そして何より三銃士とダルタニアンに魅力が全然無いのが問題。序盤からダルタニアンは三銃士と上手い事偶然ぶつかり合って喧嘩を吹っかけ、三銃士もダルタニアンに喧嘩を吹っかけ…と、どちらも単なる頭の悪いチンピラでしかなく、序盤で各登場人物達の紹介がこれじゃあ主人公に共感性なんて一切無くなってしまう。その後もただ暴れたいだけのゴロツキに変わりは無く、文句を言って酒を要求している、召使いに対する扱いは完全に馬鹿にしている等、喋れば喋る程頭の悪さばかり目立って、「一人は皆の為に、皆は一人の為に」というあの有名な台詞もただただ上滑りするだけ。他の登場人物達の会話も格好付けているんだろうけれど、それが中高校生が思う様な格好付けなので、まあ恥ずかしい限り。
三銃士とダルタニアンの立たなさ自体も問題だけれど、周りにミラ・ジョヴォヴィッチ、オーランド・ブルーム、クリストフ・ヴァルツ、マッツ・ミケルセン等が配役されているので、彼らの方が全然存在感があってしまい、更に三銃士とダルタニアンの存在感が薄くなって行ってしまうのも問題。三銃士を演じる役者達は全然知らんし、変にCGやセットにお金かけるんだったら主役達にもっと有名所を配役するべきじゃないの?と思ってしまった。
その役者の中でも、ミラ・ジョヴォヴィッチはポール・W・S・アンダーソンの妻だけあって相当優遇されているのが分かってしまう。始まりで、何故かレオナルド・ダ・ヴィンチが発明した圧力を感知し通路の両脇から自動的に矢を放つ仕掛けが出て来て、また如何にもそれがポール・W・S・アンダーソンぽっくて馬鹿馬鹿しく安っぽいのだけれど、それを通り抜けるのはフッワフワのドレスを着たミラ・ジョヴォヴィッチが全速力で走り抜けるだけという非常に馬鹿馬鹿しい場面があり、そこは主役でも無いミラ・ジョヴォヴィッチの見せ場を作っているだけで、ミラ・ジョヴォヴィッチの同じ様なスローモーションでの見せ場がまた中盤でもあるし、どんだけポール・W・S・アンダーソンのオナニー見せられないといかんのだ…。
それ以外にもポール・W・S・アンダーソン的な安っぽさが一杯。始まりからしてアトスが運河から泳いで上がって来るけれど、顔に革らしきマスクを被っており、それだと絶対溺れ死ぬじゃん…と思ってしまい、もう早い時点で表面だけで中身はないのだろうなぁ…と分かってしまう。派手な画面の為に飛行船を出しても、作り物にしてもその嘘感がただ安いだけだし。
加えて何でポール・W・S・アンダーソン映画のアクションっておもしろくなんだろう?他の映画でも多用される一気に敵を倒し、やたら回転したり飛び跳ねたり、途中途中にスローと早回しの連続だったりを使っているのに、全然印象に残らず、見せ場なのに緊張感もワクワク感も全然無いし、アクション場面のスカスカした感じに「あれっ?」と違和感ばかり。それに建物の屋上から運河の船に飛び降りるアラミスはマントと頭巾を被っていて、映像的には「アサシンクリード」だし、他のアクションも元ネタありそう。
衣装も皆馬鹿馬鹿しさが蔓延している。三銃士とダルタニアンは黒目の革ジャン着ているし、ミラ・ジョヴォヴィッチのフッワフワのドレス姿なんて誰が見たいんだろうか?結局服脱いで「バイオハザード」みたいな事してるし。オーランド・ブルームの服は絶対、そのキラキラ感で一笑いさせようとしているだろう。
この映画、以前予告見た時に感じた「映像的には派手だけれど、つまんなそう」という感想そのままだし、「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」という余り頭が賢くない邦題が全て内容を言ってしまっていて、それだけ。映像は派手にしているけれど、脚本は人物や話を描くには散漫で薄過ぎ、アクションも引きが無いという、如何にもよく言われている「駄目な方のポール・アンダーソン」の映画。
☆★★★★