パブリック・エネミーズ

2013年06月06日 木曜日

マイケル・マン製作・監督、ジョニー・デップクリスチャン・ベール共演の2009年の映画「パブリック・エネミーズ(Public Enemies)」。

1930年代の銀行強盗ジョン・ディリンジャーは殺人もお構いなしの犯罪者だったけれど、銀行からしか金を取らないので普通の人から人気がある犯罪者だった。そんな彼を国家の敵として逮捕する事を命じられたFBI捜査官が追う。

ジョニー・デップはお金も女性も、そして人々の人気も手に入れて調子に乗るけれど、犯罪者の常で仲間からは見捨てられ始め、FBIにも追い詰められ…と、非常に王道、悪く言ってしまえばベタな犯罪者の話。ギャング対警官モノとしては悪くはないけれど、「何で今更こんな話?」と感じてしまう題材の古さは否めない部分がある。
構成としても、逃げながらも犯罪を重ねる犯罪者と、それを追うFBIという構図はあるけれど、あくまで主人公はジョニー・デップであり、彼の話が中心。クリスチャン・ベールは時々出て来る脇役程度の扱いで、上から発破を掛けられて黙々ととある一つの仕事に打ち込んでいる感じだけなので、追い駆け合い、出し抜き合いのサスペンス映画としては物足りないし、この二人を巡る因縁や対決を見る映画としても物足りなさ過ぎる。
それに、これは監督のマイケル・マンの特徴なのか分からないけれど、全体的に非常にゆったりと、たっぷりと描くので結構緩慢になる部分が多い。そんな調子で二時間半近くあると、当然見ている方の集中力が落ち、退屈して来る。時間をかけて描いているはずなのに、一方で結構人物の描き方がジョニー・デップ、クリスチャン・ベール共に薄い。どっちも何を考えているか分かり難く、この人はどうしたく、だから何をしたいのか?と感じてしまうとやっぱり集中力は無くなってしまう。特にクリスチャン・ベールの捜査官はジョニー・デップに対して何かを感じている様だけれど、それが共感なのか、憎しみなのかもさっぱり見えて来ないし、最後の字幕補足での実際の捜査官の結末は更に不可解で、この人物に付いて行けず。二人共、その間の出来事を切り取っただけで、葛藤等の人間ドラマが見えて来なかった。
ジョニー・デップの恋愛劇も重要な要素のはずだけれど、彼が強引だからという理由だけで犯罪者に惚れてしまうというアホな女なので、見ていても全然身が入らず仕舞いで、「この時代の犯罪者モノだから、こんな恋愛劇ですよ!」という適当な感じばかり感じてしまう。
演出は結構単調な部分が多いけれど、やっぱりマイケル・マンは銃撃戦は上手い。お馴染みの昼間の市街地戦や、FPS的な撃つ側の後部からの銃撃、遠くから響き渡る銃撃音等、迫力では流石。それでも、一戦闘を結構引っ張り、銃撃戦でも間延びしている部分はあるけれど。

不思議なのは、この時代の強盗ってマスク等で顔を隠さない事。別に顔がバレても構わないのは、まだそれ程情報の流通が盛んではないからなのかと思ったら、クリスチャン・ベールを見たら色んな人が「お前、捜査官のメルヴィン・パーヴィスじゃん!」と知っているし。ジョン・ディリンジャーは政府に「国家の敵」と名指しされ、これだけ人気があり、ちゃんと写真も出回っているのに、普通に町中にいるのに気付かれないし。流石にマリオン・コティヤールが連行される場面で、大勢の捜査官がいて辺りを見回しているのに、すぐ近くにいるジョニー・デップに誰も気が付かないなんて無理があるだろう。ここでも適当な感じがしてしまった。

ジョニー・デップって、近年は「パイレーツ・オブ・カリビアン」等変な化粧をした完全なファンタジー・キャラクターが持てはやされ、そんな役が多過ぎるけれど(最近の「ローン・レンジャー」のトントもそんな感じだし)、ただ彼の魅力が引き立つのはこの映画の様な「普通の世界の中で際立つ変わった人間」。普通の人間役だと見た目はそんなに男前に見えないけれど、若いのか歳を取っているのか分かり難い不思議な雰囲気を醸し出し、演技も抑え気味ながら非常に存在感がありつつも、役が彼の個性で押し出す強烈な存在と言うよりも、役がすっと入って馴染む感じ。ただ、犯罪者として追いかけられる方としては凶悪でない分敵感が弱いし、哀しき主人公としても、そこでも弱い。
クリスチャン・ベールは、追いかける真面目な捜査官にはピッタリだけれど、役自体の出番がそんなに多くないし、罠を張ったり、出し抜かれたりの攻防が少な過ぎるので、役としての押しは弱い。
この映画で一番驚いたのは、クリスチャン・ベールが「優秀な捜査官を呼びたい。」と頼み、そして来た三人の内の一人がドン・フライだった事。確かに見た目は厳ついけれど、何でこんな笑いではなく、本気なハリウッド映画に出てるんだ?台詞も一言だけだったし。更に謎なのは、ドン・フライの日本での活動は、マイケル富岡が所属するアンソニープロモーションに任せている。…ドン・フライは謎だ。

この映画、折角のジョニー・デップ、クリスチャン・ベールの共演で濃くなりそうなはずなのに、終始低調で間延びしたまま、非常に薄味で終わってしまう。長い割に人物の考えが分かり難く、追い駆け合いや出し抜きはほぼ無しで、雰囲気は悪くはないけれど内容は全然良くもないという、微妙な映画になってしまっている。

☆☆★★★

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