レスラー

2012年01月10日 火曜日

ミッキー・ローク復活!!」と取り上げられる事が多く、実際アカデミー主演男優賞にノミネートされ、映画はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を取った、ミッキー・ローク主演の映画「レスラー(The Wrestler)」。

2012年一本目で今年最高かもしれない映画を見た。
かつてのスタープロレスラーが、歳を取り、体はボロボロになり、私生活は苦しく、上手く行かない事だらけの中で、それでもリングに上がり続ける哀しい男の話。
ミッキー・ロークの歩く背中の後ろからの構図が多く、会話は少なく、独り語りもなく、起こっている出来事を静かに見せる、まるで一人の人間を追ったドキュメンタリーの様な映画。歳を取った男の話としても物哀しく、非常に良い映画なのだが、プロレスを知っている、好きで見ていると更に迫って来るモノが大きい。これがプロレスなんだ!と。哀しいけれど、リングでの歓声を知ってしまった男はもう戻れない、これこそがプロレスをする男なんだと、寡黙にも多くを語る。歩くミッキー・ロークの背中が哀し過ぎて泣きそうになる。
不器用な男の話と、プロレスが好きならば、ここには求めるモノがある映画。

「かつてのスターで、今は活躍する場はドサ回り的で、一人娘とは全く上手く行かない」という話の骨子は、実際のプロレスやプロレスラーを追った1999年のドキュメンタリー映画「ビヨンド・ザ・マット」のジェイク・ロバーツを基に描かれているのだと思う。「ビヨンド・ザ・マット」は本当のプロレスの裏側が描かれているので、この「レスラー」より強烈で、更に哀しい。「レスラー」が映画として、物語として構成されているので救いはあるけれど、特にジェイク・ロバーツの現実は、鬱々としたまま終わり全く救いが無いのだが、この「レスラー」以上に突き刺さる。
このミッキー・ロークを見ていると色々な人に見えて来る。ミッキー・ローク自体、俳優業よりもボクシングにはまり、かつての映画スターと言われていたとか、この主人公と被る所が多いけれど、実際ミッキー・ロークは整形の失敗で顔が別人みたいになったりもあるのか、顔は何だかブレット・ハートっぽく見えるし、金髪長髪でウェーブがかかり片方だけ前髪垂らしているのはケビン・ナッシュっぽいし、リングに立っている姿はショーン・マイケルズっぽいし、人生はジェイク・ロバーツだし、歳行っているのに頑張ってデスマッチするのはテリー・ファンクだし、イランギミックのジ・アヤトラーとマディソン・スクエア・ガーデンでの名勝負なんてアイアン・シークと闘うハルク・ホーガンだし、主人公のレスラーの娘の名前がWWEのCEOビンス・マクマホンの娘の名前と同じステファニーだし、色んなレスラーをゴチャまぜ、プロレスファンの想いを託した様な人物になっている。
このレスラー達を乗せた人物設定の上に、ミッキー・ローク自身の人生を投影した様な人物設定、更にステロイドや薬物によって夭逝した現実のレスラーを見せたり、娘を演じていたエヴァン・レイチェル・ウッドはバイセクシュアルだったり、映画の構成自体もドキュメンタリー風だけれど、現実を混ぜ込み、見えている部分以上に多くを語る映画になっている。

☆☆☆☆★

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