ワールド・ウォーZ

2019年10月09日 水曜日

マーク・フォースター監督、ブラッド・ピット製作・主演の2013年のアメリカ映画「ワールド・ウォーZ(World War Z)」。
マックス・ブルックスの小説「WORLD WAR Z」が原作だが、ほぼ映画オリジナルらしい。

元腕利きの国連職員だったジェリー・レインは妻と二人の娘を町まで自動車で送る途中、渋滞にあってしまう。
渋滞の中、突如自動車が暴走を初め、人々が逃げ惑い始める。
人々を襲う狂暴化した人間が現れ、人間に噛みつくとその人間も直ぐに狂暴化してしまった。
ジェリー・レインは家族と逃げ出し、同僚だった国連事務次長からこの状況を調査し解決する為に協力を要請された。
家族と共に海上の戦艦に避難したジェリー・レインは、このパンデミックを一番初めに報告して来た韓国までウイルス学者に同行して何が原因で解決策はあるのかを調査しに行く事となった。

映画内では「ゾンビ」とは言っているけれど、何かの感染症によるパンデミックが起こって人間が狂暴化する所謂バイオハザードモノ。
ゾンビモノにしろ、バイオハザードモノにしろ、ここ二十年位でその手の映画が粗製乱造されまくって、「問答無用で襲い掛かって来る狂暴化した人間から生き延びる」とか、「結局恐ろしいのは生きている人間」とかの映画やドラマばっかで飽き飽きしたジャンルではあるけれど、この映画はそれとは少し指向が違って、その部分では結構おもしろかった。

始まりは映画開始十分もしない内に狂暴化した人間が速攻で溢れて社会が崩壊するとか、家族と共に狂暴化した人間から逃げ延びるという既視感のある展開だけれど、早さもありでまあまあのおもしろさ。
この初めで描いた家族で生き延びるのが主軸になるのかな?と思っていたら、そこは早く切り上げて、ブラッド・ピットが世界中を回って感染症の原因と治療法を探す旅モノになり、興味が出て来た。
感染者から逃げながら各地でウイルスの大元に近付く情報を得ては次の地へと移動するスパイモノやアクションモノ、それこそ007やミッションイン・ポッシブルみたいな展開で一味違う。
単に感染者の頭を撃ち抜くとか、立て籠もるとかの在り来たりなバイオハザードモノではなく、科学的に人類や世界を救おうとするハードSF要素もあり、バイオハザードモノにテレビドラマの「ザ・ラストシップ」を組み込んだ様な展開で結構ワクワクした。
ブラッド・ピットが行く先々で感染者に襲われない人々を目にして、何かあるぞ!?の謎解き要素もワクワクした。

ただ、終盤になると都合の良さや今までの伏線をぶん投げる展開にしてしまい、何だか残念。
今まで足を怪我していたので襲われなかった兵士とか、イスラエルで見た襲われなかったおじいさんや子供が出て来て、彼らが感染者に気に留められない謎が分かるはずだったのに、最後になって急に感染者が襲わないのは感染者にとっては危険な病原体を持っているからだ!と、今までの伏線は何だったの?の関係無い結論に達してしまう。
古傷がある兵士やイスラエルの兵士の腕を切り落とした事とかが複線かと思いきや、そこは全く関係はなかったのか…。
そして、ブラッド・ピットが感染者に追い詰められて病原体を自分に打たなくてはならない状況で正しい病原体を打って感染者に気に留められなくなってしまうけれど、これって元々全ての病原体が打っても人体には害を及ばせないようになっていたのか、偶然にも選んだ病原体が正しかったからなのかもよく分かんなかったし。
この終盤での今までの伏線の台無し感ったらありゃしない。
どうやら、本来の撮影後に新たな脚本家を雇って終盤を変更して追加撮影したらしく、それでこの終盤は「ん?ちょっと待って…」となる部分が多いのかもしれない。

この映画での感染者が他の映画と変わっているのは人間を襲うけれど食べはしない事。
バイオハザードモノではとにかく何らかの方法で感染してしまえば狂暴化するけれど、ゾンビモノではゾンビが人肉を貪り食おうとして人間を襲うと食べられてしまう人間ばかりになるはずなのででゾンビが増えないという矛盾を抱えているのに対し、この映画の感染者は人を襲っても噛みつくだけなのでドンドンと感染者が増えて行く。
ゾンビモノの矛盾を解消してはいるけれど、感染者は手や足だけに噛みつくという変な習性が出ているし、何かを感染させたら満足してそれ以上襲わないという物凄い感染に忠実なのも変と言えば変。

それに世界公開を前提とした大作映画だった事もあるんだろうけれど、この手の映画としては珍しくグロテスクな場面が意外と少なかった。
感染者は別に襲った人間の内臓を引きずり出さないし、噛みついて肉が飛び散る事も無いしで、グロテスクさばかりを見せた悪趣味な感じになっていないので見やすくなっていたのは良かった。

あと、感染者の映像としては素早く行動するのは近年のゾンビモノやバイオハザードモノではお馴染みになったけれど、大勢で押しかけてまるで波の様な勢いや形態になっていたりとか、高い壁も大勢の感染者がひしめき重なり合って登って来るとか、これも新機軸を見せている。
多分この映画以降、テレビゲームでのゾンビモノやバイオハザードモノに物凄い数のゾンビや感染者が押し寄せて襲って来るというのが増えた気がする。
それこそゲームの「ワールド・ウォーZ」は映画を再現しているし、「Days Gone」とかも波の様に襲って来る。

この映画、序盤で直ぐに今までの既視感のあるバイオハザードモノから感染症の原因と解決方法を調査・究明するサスペンスかつアクションモノになったのは、最早使い古された、擦り倒されたこのジャンルに新たな方向性を見せたという部分では非常に意欲的だったしおもしろかった。
ただ、どうも終盤の取って付けた感がいまいちで、製作段階でちゃんと脚本をきちんと煮詰めてからにしとけば良かったのに…と残念な感じ。

☆☆☆★★

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