マイレージ、マイライフ
2014年10月10日 金曜日ジェイソン・ライトマン製作・監督・脚本、ジョージ・クルーニー主演の2009年の映画「マイレージ、マイライフ（Up in the Air）」。
ウォルター・カーンの小説「マイレージ、マイライフ」が原作。
各会社で上司の変わりに契約解除の通告と再就職の手助けをする解雇通知人として全米中を飛行機で飛び回るライアン・ビンガム。彼の生活のほとんどが出張で、一番の趣味はマイルを集める事であり、人間関係や恋愛も自由気ままに生きていた。そんな中、新入社員のナタリー・キーナーがインターネット回線での解雇通告システムを提案し、出張で直接赴いて面接をする事が廃止されようとしていた。それに異を唱えたライアン・ビンガムは、現場を見せる為にナタリー・キーナーを引き連れて二人で出張する事になる。
首切りを宣告する専門職が存在して、それが大きな商売になっているアメリカの状況が非常に興味深い所ではあるのだけれど、その主人公が首切り宣告人で、ある意味死神でもある事で初めは話にグイグイ引き込まれ非常におもしろかったのに、後半に行くにつれて何だか在り来たりな題材になってちょっと興味が減り始めた。
始めは首切り人の首が切られるかもしれないという自分がして来た事が自分に返り始めた不安に加え、自分の仕事をはっきりとは理解していない新人が自分の首を切るかもしれないという皮肉的な状況や、多くの人が抱く様な伝統的な理想を求める若者である新人と言い合っても、それとは違う道でずっと生きて来たおっさんは揺るがず、自分を生きて行くジョージ・クルーニーの姿を対比的に描くコメディとしておもしろいのに、中盤以降の妹の結婚からの結局は一般的な、普通な幸せだと思うモノへの思いが描かれ初めるので、それが特におもしろいとは思わないわたしにすれば急に在り来たりな人生訓に成り下がってしまった様に感じられ、飽きてしまい熱が冷めてしまった。映画としても、始めは目新しさで進んでいたのに、結局は「結婚」だの「家庭」だのという特筆すべきも無い普通な所に収まってしまうので、普通な映画になっているし。
でも、最後の投げっ放しジャーマンは結構投げっ放しで異質。普通最後は主人公の何らかの決意や意志があって終わって欲しいけれど、この映画では物凄く曖昧。ジョージ・クルーニーの表情も曖昧で、見ていても「…う、うん…。うん？」とモヤモヤして終わって、妥協に打ち拉がれるバッドエンディング感が気持ち悪い。それまで流れる様な人生映画だっただけに、「結末は言わないで下さい」や「衝撃のラスト！」と煽りの付く映画に近い感じの結末は、気持ち悪おもしろい。
一番の欠点と言えば、主人公の背景があんまり見えて来ない事。この主人公がどうしてこの生活を選んだのか？自身の選択なのか？それとも選ばざるを得なかった若い時の妥協からの今なのか？年を重ねての妥協とも違う納得する今なのか？とかの、この仕事と生き方に対する思いが見えて来ず、はっきりと意思を持って自分を生きて来たおっさんだったはずが、迷った時に過去の経験や自分の決断を顧みないで「やっぱり、こっち！」と軽く方向転換する姿が高校生とか大学生位の若者みたいな薄っぺらな感じに見えてしまった。これ、ジョージ・クルーニーじゃあなく、もっと若い俳優だと分かり易いんだけれどなぁ…。仕事優先で、女性も好き勝手やっていたけれど「この女性だ！」と本気になったら、遊んでいるつもりで自分が遊ばれていて人生を考えるって、20～30代位の人物の方がしっくり来るのだけれど。妹の結婚の話が出て来て、妹役のメラニー・リンスキーの見た目からでも彼女は30代前半位に見え、それなのに彼女の兄はもうすぐ50歳位にしか見えないジョージ・クルーニーなので、年齢が頭の中でグチャグチャになっていたし。
年齢に違和感は感じるけれど、ジョージ・クルーニーの演技は確かに良い。それこそ言葉では言い表し難い顔するし、楽しそうな時は本気で楽しそうに見えるしで演技は良いのだけれど、白髪頭のおっさんだとどうにも主人公の配役としては違和感があった。
この映画、結局主人公がどうしたかがはっきり描かれないのでモヤモヤしたまま。彼が続けたとほのめかすけれど、だったら描いて欲しいと思ってしまうのは、投げっ放しジャーマンにも気持ち良い投げっ放しジャーマンと気持ち良くない投げっ放しジャーマンがあって、この映画は後者だったから。
それと、結局の「愛」や「家族」に行き着くのって、他の映画でもそれまで目新しい事やおもしろい事していたのに、決着がキリスト教的な結末、キリスト教信者ならすんなり入るけれどそうじゃない人は「？」や不満になる様な結末になってしまう「あ～あ。そこか…。」な感じと似ていて、これまでの有りがちから抜けた別のモノを期待していた分だけ期待外れ感が大きかった。
☆☆☆★★