仇討
2012年04月07日 土曜日中村錦之助主演の社会派時代劇「仇討」。
武士の揉め事も、殺人も、制度の中で守られるけれど、当然ややこしい問題になり、仇討までのその人間模様と葛藤を描き、社会や権力での下では個人なぞ小さく、翻弄されるだけでしかない、その理不尽さを淡々と描いた非常に重く、哀しい映画。
ちょっとした悪口から侮辱のやり合いになり、そこから殺し合いにとか、仇討というそれなりの制度を殺し合いのエンターテイメントショーにして皆で楽しみにするとか、侍ってクリンゴン並みの頭のおかしさ。侍って見栄だの、義理だの生きるのが面倒臭い。この中では坊さんが一番今的感覚に近いのか。
じっくりと描くのは良いのだけれど、「あれはどうだった。」とか、「これはそういう意味なんだ。」とか、台詞での説明が多く、ほとんどがその会話ばかりでなかなか展開が見えて来ず、結構退屈して来る。独り言での心情説明はやっぱり興を削ぐ。初めに示された仇討までが丁寧に描かれていると言えばそうなんだけど、本来ならその仇討までを興奮や感慨を徐々に上げて行くのに、全体的には引っ張り過ぎでしつこい感があり、仇討まで我慢もしびれが切れて来る。もっとまとめても良いのにとは思う。演出は、始まりから霧が充満し、白黒のでの霧一面というのは綺麗。なんだけれど、それ以降が長い割に見入る様な場面が無く、最後の仇討までがどうにものっぺりし過ぎで、飽きが来てしまう。映画的な映像の鋭さや、劇的な展開が無い分、淡々とした小説を読んでいる感じ。
その分中村錦之助の心持の変化は良く出ていて、中村錦之助の落ち込み、呆け、鬼気迫る表情は圧倒的。最後の仇討のたちまわりは本当に恐ろしい気迫の演技。
中村錦之助と仇討をする末弟が石立鉄男とは、後で名前が出て来て気付いた。石立鉄男って「♪わかめ好き好き~」位のアフロの歳行った石立鉄男しか知らないから、この若い時のおぼこく、可愛らしい石立鉄男との余りの違いに驚き。それと、三田佳子は今ではアレでアレだけれど、この三田佳子は凄いかわいらしい。
中村錦之助の演技が図抜けて凄まじく、面目や価値観からどうにも抜け出せない、抜け出そうとしない物悲しさで貫かれ、こういった救いの無い時代劇は良い。だけれど、展開はもう少しキビキビと見せても良かったのにと思う。
☆☆☆★★