犬神家の一族(1976年版)
2012年04月03日 火曜日訳の分からぬ、もはや金田一耕助でもない高倉健版の「悪魔の手毬歌」の次は、今でも映画版金田一耕助と言えば石坂浩二な、シリーズ化されたその第一作目「犬神家の一族」。
やっぱり、石坂浩二の金田一耕助と言い、この昭和初期感と言い、因習や因縁と言い、おどろどろしさ溢れる雰囲気と言い、これこそが金田一耕助。
石坂浩二の妙に呑気で好奇心旺盛な金田一耕助は、強く前面に押し出さないけれど個性が、存在が強く、後世に影響を与えた石坂浩二の作り込みは素晴らしい。
監督の市川崑も、小気味良いし、短いカット挟んだり、わざと画面前に何かを被せて不安定な構図にしたり、回想場面はコントラストが極端に強い白黒だったり、残像を残すスローだったり、今見ても尖っている実験的な演出が不気味な雰囲気に合っているし、更に増幅させている。そして、「テンコンテン~テンコン~テテン」の音楽と極太明朝体での字幕による始まりは、ワクワクしっぱなし。
主人公以外の役者陣も本当に良い。「よしっ!分かった!」でお馴染み加藤武は、陰鬱に成りがちな展開の中でコメディリリーフになっていて、強面過ぎるけれどおちゃめで憎めない人物。犬神三姉妹の三女優は皆強烈。疲れた感じ、不満たらたらな表情、精神の抜けてしまった表情といい、ベテラン女優は流石で圧倒的。島田陽子にしろ、坂口良子にしろ、この映画は話的にもそうだけれど、男優よりも女優の演技に目が行く。その分周りの若手の演技の拙さが見えてしまったりするのだけれど。石坂浩二でリメイクされ、何で作り直したのか良く分からなかった「犬神家の一族」で、女中が深田恭子だったが何でだろうと思っていたけれど、このほわ~っとした坂口良子を見て納得。あと、言われないと分からなかった人も。「ちい散歩」でお馴染み地井武男は喋ると分かるけれど、犬神家当主の三國連太郎とか、宿屋の主人が普通のおじいさんで誰だと思ったら横溝正史だったり。三木のり平とか、大滝秀治とか、変に笑いを誘う人が出て来たりも。
そして今でもパロディにされる名場面がわんさか登場。菊人形の生首、湖から伸びる二本の脚、「…お母さん、佐清です。」や「青沼静馬さ!」等々の名台詞。やっぱり衝撃的場面が多い。
でも、この話良く考えたら、犬神佐兵衛が最後まで好き放題して死んで行った何じゃこいつはな展開と、やっぱり金田一耕助は殺人を止められていないし、事件の説明はしているけれど事件を解決したと言えるのか分からない金田一耕助は毎度の事。
これだけ真面目に、しかも挑戦的に推理モノを作っていて、流行を作り出し、シリーズ化されたのも分かるし、この日本の昭和初期の持つ古い因縁と新たな時代を目指す狭間の、まだ覗き見たくないと思える人々が隠す様なおぞましさを描いていて、この時代感と雰囲気は良いし、好きだ。
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