ガス人間第一号
2021年05月18日 火曜日本多猪四郎監督、円谷英二特技監督、三橋達也主演の1960年の日本映画「ガス人間第一号」
変身人間シリーズの三作目で最終作。
銀行強盗が発生し、その犯人を追う岡本賢治警部補だったが、犯人が乗った自動車が崖から落ちてしまう。
直ぐに自動車を確かめたが犯人の痕跡が無く、岡本はその現場の近くにあった日本舞踊の名門春日家を怪しみ、犯人の手掛かりが無いので家元の春日藤千代の捜査を始める。
春日家は人々が離れて落ちぶれていたが、春日藤千代は大金を使って人々を呼び戻して発表会を開こうとしていた。
春日藤千代が使ったお札の通し番号から銀行から盗まれた金だと分かり春日藤千代を逮捕するが、水野という男が自分が強盗犯だと警察に自首して来た。
水野はどうやって強盗を行ったか現場で再現すると言い、警察を銀行に連れて行くと水野の体はガス状になり、殺人を行って逃亡。
水野は春日藤千代は犯人ではないので釈放しろと警察に言うが釈放しない警察に対し、ガス人間となって殺人を行い始めた。
Amazon プライムビデオを検索していたら、この「ガス人間第一号」がもう直ぐ配信終了となるので、じゃあシリーズ一作目から順番にと思って、「美女と液体人間」、「電送人間」を見ての「ガス人間第一号」。
「ガス人間第一号」が有名なだけはあって、シリーズの中でも「ガス人間第一号」が一番おもしろかったし良く出来ていた。
「美女と液体人間」がモンスター・パニック映画。
「電送人間」が電送を使った復讐殺人で、二作がほぼ似た様な構成だったのに対し、この「ガス人間第一号」はガス人間の心情や狂気を描いていて人間ドラマになっているし、構成もおもしろかった。
始まりからしてオープニング・クレジットで銀行強盗をサラッと見せて説明をして導入が早い事に感心。
その後は岡本と新聞記者甲野京子の事件捜査モノで、中々犯人に繋がらないと思っていた所へ、突然犯人が自首して来てからの無敵のガス人間だと分かって自分の言う事を効かせる為の攻撃へと転じ、ガス人間水野の背景や考えを描きつつ、春日藤千代とはどうなるのかの展開は中々上手い。
犯人が捕まったと思った所から水野の自首は推理モノやサスペンスとしては意外性があっておもしろい展開だし、それが意外性だけを狙ったモノではなく春日藤千代を助ける為という理由がちゃんとある。
誰も止められないガス人間の精神的なホラーとしても怖さがあるし、水野のガス人間となった理由やガス人間になってしまった哀しさや達観と人間を辞めてしまった狂気とかもちゃんと見える。
最終的に水野の狂気の愛と春日藤千代の結末も恋愛モノとしてもちゃんと出来ているし、シリーズとしては今までとは全然違う脚本の練られっぷりで引き込まれて見ていた。
ただ、終始春日藤千代の考えが見えて来ないのが分からない部分でモヤモヤも多かった。
春日藤千代は水野をどう思っているのかが分からず、春日藤千代は水野がガス人間で人を殺してまで奪った金だと知った後も発表会を開こうとしていて、春日藤千代は春日家再興にはそこら辺は目をつぶっても良いと思っているのか?
春日藤千代は水野を愛していると言ったけれど、ガス人間だからの部分じゃなく、水野は犯罪者だし殺人犯だし、もう人を殺しても何とも思わないサイコパスだしなのに本当に愛していたなら春日藤千代は水野並みにヤバい奴では?
水野の力と異常さに怖くて従うしかなかった?
春日藤千代は水野を説得する気も無かった?
最終的に春日藤千代は水野と爆死するけれど、そもそも警察の計画を全然信用してなくて自分で火を付ける気だった?
等々、見ていても水野よりも春日藤千代は感情が見えて来ないと言うか乏しいと言うかで、彼女はずっと何を思っているかが分からないのでずっとモヤモヤしたままだった。
ガス人間の設定としては、何かの人体実験で本来全く思っていなかった結果でガス人間になっちゃったとか無茶苦茶強引だし、ガス人間がガスか気体になるなら扇風機とか団扇で扇げば退散出来そうだし、ガスなら火炎放射で焼けば倒せそうな気もするのに大きな劇場一杯のガスで吹き飛ばさないと倒せないとか、ガス人間を殺すには民間人も巻き添えで劇場毎爆破してもしょうがないとなる警察も相当だとか突っ込んで見てしまっている部分もあった。
あと、強盗ギャングと言う言葉に馴染みがなかったけれど、強盗ギャングってこの当時は普通に使われていたのだろうか?
役者陣は、今までのシリーズ二作で主役級・準主役級だった平田昭彦や白川由美が全く出て来ず、これまで二作共で刑事役だった土屋嘉男がガス人間で全然印象が違う。
後から調べて三橋達也はこの映画の時は37歳。
土屋嘉男が33歳だった事に驚き。
二人共40代か50代位の老けっぷり。
20代位の甲野京子(演じる佐多契子はこの時19歳)と三橋達也が幼馴染って見た目的に無理があるし、実年齢でも無理あり過ぎ。
八千草薫は綺麗。
この映画、変身人間シリーズ最終作ではあるものの、変に今までの流れを継承せずに人間ドラマを中心に狂気の愛を描いていて物悲しさのあるSFホラー映画としては良く出来ている。
これ位の練り様でシリーズ作っていれば、もっと特記されるシリーズになっていた気がしないでもない。