ANON アノン
2021年10月03日 日曜日アンドリュー・ニコル製作・監督・脚本、クライヴ・オーウェン主演の2018年のイギリス映画「ANON アノン(Anon)」
全ての人々の個人情報がデータ化されて収集され、見た物や記憶が全て映像として記録される世界となっていた。
刑事のサル・フリーランはある殺人事件を担当する事になるが被害者の死ぬ間際の見た映像は何故か犯人からの見た映像となっており、記録が改ざんされていた。
他にも同様の殺人事件が発生しており警察は捜査を続けていたが、捜査の中でサル・フリーランは犯人らしき人物に遭遇。
犯人を追うがサル・フリーランはハッキングされてしまい、今見ている物が現実とは違う映像に置き換えられてしまった為取り逃がしてしまう。
サル・フリーランは犯人が被害者の記録を消去したり、上書きして捏造したりしている事を知り、サル・フリーラン自らが犯人の顧客として直接会う為に経歴を書き換えて接近しようとする。
全ての人間の素性が収集されてプライバシーの存在しない世界となり、見るモノ全てが記録され、犯罪も直ぐに知られて解決してしまう世界で、その一番確かな見た映像が書き換えられてしまったらどうなるのか?というSFサスペンス。
人々が情報にアクセスするのは目を凝らすだけなので、皆が常に中空を見つめているという誰もが虚ろな感じで、映像も全体的に灰色がかっているし、建物はコンクリート打ちっ放しが多くて、全体的に薄ら寒い虚無感が充満していて雰囲気は良く出て来ている。
今と変わらない街並みに白いワイヤーフレームや文字を重ねるだけで見た目に近未来SFにしてしまう発想の良さや、人物は何もせずに一点集中で静止状態でも実は頭の中、目の中で色々とやっているという演出もおもしろい。
この見た目の映像の演出はゲームの「ウォッチドッグス」にバリバリ影響を受けているんだろうなぁと思ったし、その人の見た目の映像は完全にFPSゲーム。
特に銃を構えている場面はFPSそのもの。
ただ、見た目の映像が映画のカメラで撮っているので仕方ないとは言え、人間の見た目なのに視野角が狭い気がしたし、非常に滑らかに動いているのは違和感。
多分本当に人間の見た目のままの映像だと、顔は動かすし、顔は止まっていても目だけキョロキョロ動かして視点の移動は早いので、映像化するとブレまくるし、視点があっちゃこっちゃに行ってグッチャグチャな映像で見難いだろうなぁ。
話はこの設定さえ受け入れてしまえばサスペンスとしておもしろいし、主人公の刑事がハッキングを受けて現実と見ている物が違うという怖さもおもしろく見れた。
ただ、SF部分はほとんど説明が無いので都合がいいだけになってしまっている。
この仕組みはソフトウェア部分しか登場せず、ハードウェアは一切登場しないので、ハードウェアを物理的に接続を切ればいいだけだったり、外部の記憶媒体に保存すればいいとかの話を「それは無理」にしてしまっている。
この仕組みが全員に行き渡っているし、ハードウェアが存在しないので結構な未来かと思うけれど、街並みはそんなに未来でもなくてほぼ現在なので、この仕組みの導入が疑問になって来る。
何故全員が受け入れているのか?
何故導入していない人はいないのか?
物理的に目の中、頭の中のハードウェアを除去する人がいないのか?等々、疑問ばかり。
謎の女ANONも騙したくはないと言う理由は分かるけれど、あれだけの大きな町に住んで行動しているのにエラーが出ていれば気付かれるし、気付かれない様にANONが映った映像を消しているけれど、それを気付かない警察は間抜け過ぎるし、そもそも記録を管理している所やプログラムが穴だらけ過ぎて、この世界のセキュリティーがざる過ぎ。
話もこれだけの振りを入れておいて、わざわざANON目線の殺人映像を作ってまで何故ANONに罪を被せたのかが結局よく分からないし。
ストーカー化してしまって、ANONに対する嫌がらせをしていたという事?
この事件の結末は描き方もお座なりで、そっちではなく見た映像の記録の現実や非現実と匿名性の事を描きたかった感じが強くて、それだったらもっとそっち寄りで推理部分をもっと分かり易くすればいいし、変に推理モノにしなくてもよかった様な気がした。
この映画、見ている時は映像と演出の力でスッと入って来てつまづく事無く見れておもしろかったのだけれど、後から思い返すと話を進める為の都合の良さが気になってしまって急に出来が良くない様に感じてしまった。
☆☆☆★★